よくいわれる「老後資金3,000万円」は本当か

さて、老後資金準備に目を向けて、運用に対する視点を変えてみようというシリーズですが、そもそもいくら必要かという話を抜きにこのテーマは語り終えることができません(というか語り始めることもできない)。

では、老後資金はいくらあればいいのでしょうか。

よく聞かれるのは「老後資金は3,000万円」という数字です。いくつかのアンケートを見ても、3,000万円くらい必要と考えている日本人が多いようですから、FPが勝手に言っているだけでなく、実際にそう考える人が多いようです。

実際、私もよく「3,000万円」という数字は使います。私がFPとして説明するときは以下のような言い方をします。

  1. 日常生活費として1,000万円程度……
    家計調査などを見る限り、年金収入だけで老後の生活は不足しているのが平均です。毎月4~5万円程度は実際に不足している状態です。老後は現実に25年は考える必要があり、この場合1,000万円以上必要になります(毎月5万円×25年だと1,500万円)。
  2. リスクに備えて1,000万円程度……
    病気やケガ、介護に長くお金がかかる場合に備えておく必要があります。なお、健康保険や介護保険の自己負担増は実現可能性が高く、かかるお金は高めに見積もっておくべきです。闘病や入院生活が長くなる可能性も無視できません。葬式代も残しておくならさらに必要額が高くなります。
  3. 年金減、自己負担増、インフレ等に備えて1,000万円程度……
    普通に老後を送っただけで、実は夫婦で6,000万円くらい年金をもらえるのですが、10%水準カットになれば600万円のマイナスに近いインパクトです。あるいは消費税が今より10%あがるということは、買い物できる実額が8.7%減ることを意味しますので、その分老後資金を増額する必要があります。合計すると1,000万円くらいの覚悟がほしいということになります。

実は老後資金準備の不確定要素は多すぎる

ここまでの説明を聞くと、あまり厳密でないと思われるかもしれませんが、もともと数十年後の予想は厳密に行うことは不可能です。それが老後資金準備の難しさです。

今すでに述べている部分だけでも不確定要素は「毎月の年金額と生活費との不足額」「病気やケガ、介護費用」「健康保険や介護保険の自己負担割合増の度合い」「年金水準の減額割合」「消費税の上昇率」などをしてきました。それぞれ「いつ」行われ「どの程度」必要になるか考えはじめるときりがありません。

インフレも問題は難しく、「いつ」「どの程度」を予想するのはほとんど無理でしょう。しかし無視するには無理があります。
となると、「3,000万円」は現在価値に照らし合わせた暫定値であり、状況によって増加すると考えるのが適当です。インフレが進むときにはしっかり修正をしておく必要があります。

また、所得の高い人ほど、生活水準は高くなりますから、老後資金は多く必要であることも個人レベルの問題として考える必要があります。公的年金については所得の高い人ほど多く保険料を納め、多く年金をもらえる関係がありますが、高所得者が期待するほど比例しません。企業年金を足しても月額40万円に行くことはまれですから、公的年金だけで600万円以上の収入を期待するのは無謀です。
老後も高い生活水準を希望する場合は、人よりも多く老後資金を貯めておく必要があります。