このコラムでは資産運用の目標として「老後資金」を掲げてみたら、という話をしました。なんとなく「増やしたいな」ではなく、具体的な目標につなげていく方法として、老後資金準備を考えてみてほしいと思います。

前回は老後資金準備が必要だ、という話をしましたので、今回は「老後資金準備を意識すると運用手法をラクにできる!」という話をしたいと思います。やはり、老後資金準備を目標とすることのメリットがあったほうがいいですもんね。

老後資金準備を単独で考えてはいけない

老後資金準備について話をすると、たいていの人がそれを独立した課題として捉えるようです。確かに、無理のない金額を捻出できて、それを独立した口座に積み立てて、そこは崩さない口座として管理できるのならいいのですが、老後資金用に余裕資金が最初から設定できるとは限りません。むしろそんな余裕はない!、という人のほうが多いことでしょう。

老後資金準備は、家計全体の中から計画的に捻出したいテーマです。しかも、単発的ではなく、継続的に積み立てていくことが必要です。つまり毎月の積立は、日々の生活にも支障がでない必要があります。
日々の生活と老後資金準備は一体となって考えるべきテーマといえます。

今回は、老後資金準備を単独で考えるのではなく、他のマネープラン上の課題とどう連携させるか考えてみたいと思います。

「稼ぐこと」も「節約」も老後資金準備につながっている

まず「稼ぐ」というテーマは老後資金準備につながっていると考えたいテーマです。資産運用をやっているとしばしば忘れがちですが、自分の体を資本にして働き、給料を稼ぐというのはとてもパワフルで効率的な資産形成の方法です。よく大卒男性の生涯賃金は3億円といわれますが、それだけの運用益を稼ぐことは一般には困難でしょう。仕事によって得られるお金は大きなものがあります。

しかし、働いて稼ぐ力は年をとった将来に失われるからこそ、今、老後資金準備に必死になる必要があるわけです。そして、より多く稼げる今のうちにその稼ぐ力を発揮しておくことが重要になっています。
特に、眠っている「稼ぐ力」がないかは家庭でしっかり考えてみたいテーマです。働いても差し支えない専業主婦が毎年100万円稼げば、20年で2000万円の力に変えられますし、能力があるにもかかわらず低い年収に甘んじている会社員が40歳で年収を100万円上げることができれば、20年で2000万円以上の収入差を作れるわけです。
当然、たくさん稼げた方が、老後に回す資金も多く設定可能になります。老後資金準備の第一はしっかり働いて稼ぐ、ということなのです。

また、「節約」も老後資金準備に直結しているテーマです。どれだけ稼いでも、効率的に生活をやりくりして将来に残せなければ、それは老後資金になってこないからです。
世帯年収600万円からしっかり100万円を貯め続けた40歳の夫婦は60歳時点で2000万円プラス運用益を得られます。これなら老後に一定のめどが立つ水準です。しかし世帯年収が1200万円であっても年間の貯蓄が20万円もなければ、60歳時には400万円プラス運用益しか残りません。これでは老後に不安が残ります。

先ほど、稼ぐのが大事だといいましたが、どんなに稼いでもその力をしっかり残して、老後のために蓄えておかなければ意味がないわけです。
運用益そのものを多く生み出すためにも、運用に回す元本が多いほうが有利になります。老後資金準備では複利効果が期待できますが、複利効果を高めたいのであれば拠出元本が多いほうが効果的だからです。

節約(この場合、ケチるという意味ではなく効率的にお金を使って暮らすということ)は目の前の1カ月のやりくりだけでなく、老後資金準備につながる重要な課題だと認識すると、張り合いも違ってくると思います。

「住宅ローン」も「教育費」も老後資金準備につながっている

節約に関連して、もう少し老後資金準備と密接な関連があるテーマをあげると「住宅ローン」や「教育費」は老後資金準備とがっちりつながっているテーマと考えるべきです。
いずれも、よりコストをかけずにすめば、老後資金準備に回す余裕が生まれるからです。

もし、あなたがリーズナブルに物件を取得でき、老後資金の返済総額が1000万円少なかったとすれば、それはそのまま老後資金に回すことができます。
例えば、同じ3500万円の物件を購入するとしても、頭金を1000万円作れれば、総返済額は約500万円違ってきます(35年ローン。年利2.5%と仮定)。あるいは返済期間を10年短縮し、25年でがんばって返済できれば総返済額は約545万円減ります。
物件価格そのものが3000万円ですめば総返済額も750万円減ってきます。

見かけの購入価格以上に、ローンの総支払額は大きく生涯を左右します(概算で、借りた金額の1.5倍は返すと考えたい)。500万円以上の金額が老後に回せるかどうかは、大きな違いでしょう。住宅購入そのものが、老後資金準備の余力を左右してくるということはじっくり考えてみるべきテーマなのです。

また、教育費を全額親が立て替えなければならないと考える場合、無理をすればその分自分の老後に窮する、ということは意識しておく時代になっています。
高校と大学の学費および子の生活費は合計で1000万円の覚悟が必要ですが、これを全額親が負担して、親の老後を子に養ってもらうような構図はうまくいきません。なぜなら、今の子は親より経済的に豊かになるとは限らないからです(高度経済成長時代だと子のほうが親より豊かであったので、親は無理して子を大学に入れるとその後の扶養を頼ることができた)。

20代の子、あるいは結婚して子育て真っ最中の子に、親の老後資金を頼ることはほとんど不可能でしょう。「お前を大学まで出してやったのはオレだ」と言っても、子にはその余裕がないのです。

子の教育費は全額出してあげたが卒業後の子に200万円頼るのと、子に200万円は奨学金を取らせて老後の生活費は頼らないのとは、金額的には同じでもずいぶん違うはずです。老後の準備がぎりぎりの家庭では、子の学費を親が全額出すか、大学の入学時点で真剣に検討すべきテーマとなっているのです。(もちろん、予め教育資金を計画的に準備することも大切ですが、少なくとも返済を先送りするばかりになる教育ローンは避けるべきです)

「今」と「未来」をつなげる老後資金準備

資産運用においては、そこにある資金の増加だけを考えがちですが、「多く稼いで、そのうちから追加拠出をする」ということも同時に考えることが重要です。前回も述べたとおり、運用益だけに依存するとリスクを高める運用計画を立てなければならないからです。

また、その資産運用における収益は、来月の飲み会で奢るような「あぶく銭」ではなく、「数十年後に必要となる老後資金」という意識を持つことが必要です。ちょっと運用で儲けたから贅沢をしようという考えはおすすめできません。

つまり「今(現在)」と「未来(老後)」とをつなげていくことが重要になってくるわけです。
ひとつは「今」の余力を運用に回して、「未来」の資産とする意識、もうひとつは「今」得られた収益を「未来」の資産に残していく意識、です。

今の力をお金に換え、数十年後に活用するというのはずいぶん壮大な話のようですし、将来お金に困る、というのはなかなかぴんとこないことだと思います。しかし、それこそが、今眼前に迫りつつある課題なのです。

ところで、運用の力を借りることであなたの「力」はひとつ増えます。それは「殖やす力」です。資産運用を老後資金準備に活用する人は、効率的に未来へ資産を作っていく方法を知っている人なのです。