夫婦で老後に備える共通意識が必要だ

今回は、夫婦が老後の備えを考えるとき、iDeCo口座を夫婦ともに開設したほうがいいのか、というテーマを取り上げてみます。

まず、前提としておきたいのは、老後資産形成は夫婦のどちらかだけががんばるべきものではない、ということです。教育費や住宅ローンの返済をどちらかだけが背負うものではなく、夫婦が協同して事に当たる必要があります(仮に専業主婦ないし主夫と専業会社員の夫婦だった場合でも、夫婦協同で考えるべき)。

しかし、子どもの学費や住宅ローンと比べれば、老後資産形成においては共通認識が持ちにくいことに注意が必要です。夫婦の片方だけが危機感を抱いていても、夫婦のもう片方はそこまで気が回っていないということはよくあります。なぜなら老後のための備えが実行されていなくても目の前の家計に直接赤字をもたらすわけではないからです。

無計画なまま老後を迎え、実際に得られた資産残高と公的年金水準を知り、そこで焦っても残念ながら手遅れです。65歳から資産形成を行う選択肢は極めて限られているからです。そんなリタイア生活を迎えて、どちらかが「これしかないの」と不満をもらして夫婦喧嘩をするようなことは避けたいものです。

現役時代に問題意識を共有していなかったわけですから、老後の不満が生じたとしても、どちらかが悪いというわけではないのです。

NISAもiDeCoも国民ひとり1口座が原則

夫婦で老後に備えるとき、税制優遇のある口座の活用は大切です。NISAとiDeCoがその魅力的な選択肢となりますが、NISAもiDeCoも、国民ひとり1口座しか開設ができません。

もし夫婦で有利な税制優遇口座をフル活用したいのであれば、ともに口座開設を検討する必要があります。夫婦といえども他人の口座を勝手にログインして使い回すことはできませんし、iDeCoは自分名義の銀行口座から掛金を引き落としますので夫婦それぞれが「自分の口座」としてNISAやiDeCoを活用するという意識が必要です。

夫婦それぞれが口座開設を行い、NISA2口座、iDeCo2口座があれば、老後資産形成において、税制優遇枠は大きく拡大することになります。

次に考えるのは、NISAとiDeCoの優先順位です。

夫婦で2口座の意義が大きいのはNISAよりiDeCo

最初に結論から述べれば、NISAよりもiDeCoのほうが「夫婦で2口座」を優先するべきです。

その理由はNISAのほうが利用枠が大きいということです。利用枠が大きいほうを夫婦とも開設すればいい、のではなくむしろ逆なのです。

NISAの場合年間120万円という大きな投資枠があります。同一年内の売買は想定せず中長期的な資産形成のために用いるのであれば、一般的な勤労者世帯には使い切れないほどの枠です。夫婦でNISA2口座を開設し年240万円の枠を確保しなくても、投資に積極的なひとりが1口座を作っておけばやりくりできる可能性が高いと思います。

しかしiDeCoの場合、投資枠はそれほど大きなものではありません。企業年金のある会社員や公務員の場合は年14.4万円の枠ですし、自営業者であっても年81.6万円しか枠がありません。2口座作って利用枠を大きくしておきたいというわけです。

税制優遇の面でもiDeCoのほうが一歩上回ります。掛金ベースでの所得控除のインパクトです。仮に掛金額の20%が還付されるとしても、年14.4万円の2割を取り戻すか、28.8万円の2割を取り戻すかは大きな違いです。

ただし、来年からは積立NISAも始まり、こちらは拠出限度額が小さくなるので「夫婦で2口座」のニーズはiDeCoも積立NISAも同様に高まってくるといえるでしょう。

老後資産形成枠はお互いにiDeCoを活用する

老後資産形成として考えたときにも、iDeCoのほうがメリットがあります。口座管理手数料が引かれるものの、所得控除のメリットのほうが上回りますし、運用益非課税のメリットはNISAと同様に得られます。

しかも、利益確定を何度してもいいので、一度売ったらそこで運用益非課税メリットの終了するNISAよりも長期投資に向いています(無理に利益確定せずに持ち続けてもかまわない)。

NISAが投資年から数えて5年目の年末までに利益確定を求められるのと違い、60歳というゴールまで長期投資スタンスで臨める点でもiDeCoは老後資産形成の中核に据えられます。

(NISAも6年目のNISA口座にロールオーバーが可能。また積立NISAは20年の非課税投資期間を設定可能)

iDeCoの中途解約できないことはしばしばデメリットとして語られますが、家計を管理し老後の資金原資を入金するように活用すれば、むしろ中途解約できないことがメリットになるでしょう。

「老後に備えて、夫婦それぞれ月1.2万円はiDeCoに積立をしよう。これで○○万円の原資+運用益が老後に積み上がる」というような話し合いを行い、口座開設を行いたいものです。