インフレリスクを背景とする米長期金利の上昇傾向と円安
二つ目は、インフレリスクを背景とする米長期金利の上昇と、それを受けた円安です。
市場予想に比べ堅調な結果となった9月の米雇用統計や米小売売上高を受け、アトランタ連邦準備銀行のGDP(国内総生産)ナウキャストが予測する2024年7~9月期の実質GDPは前期比年率3.3%(10月25日現在)と、相変わらず強い状況となっています。
CBO(米議会予算局)が推計するGDPギャップがすでにプラスで推移する中、米国の消費者物価の前月比は6月をボトムにプラス幅が拡大傾向にあります(図表3)。
<図表3 米消費者物価指数の前月比>
こうした堅調な米景気やインフレリスクの高まりを受け、米国の10年金利はこのところ上昇傾向をたどっており、つれてドル/円相場は水準を切り上げる展開となっています(図表4)。まだ7月利上げ時ほどの切迫感はありませんが、こうした円安傾向は12月の利上げを後押しすることになるとみています。
<図表4 ドル/円相場の推移>
必要なのはバラマキじゃない~ユニット・レーバー・コストが示す政府の課題
金融政策に影響を及ぼすとすれば、9月の自民党総裁選で石破茂首相としのぎを削り、利上げには真っ向反対の高市早苗氏が党内で復権することですが、高市氏を推薦した11人の多くが落選しており、その可能性は低いとみています。
それより、レポートの冒頭で述べた財政運営への影響の方が気になるわけですが、日本経済にとって必要なのは単なるバラマキではありません。いかにして生産性を引き上げ、企業が高い賃金を支払える環境を整えていくか。そのために必要な取り組みを与野党で真剣に議論し、実行していく契機に、今回の衆院選がなれば良いと願っています。
以下では、先週のレポートの続きになりますが、実質賃金の引き上げ、すなわち名目賃金をインフレ率以上に引き上げることが日本経済にとっていかに重要かについて、ユニット・レーバー・コストという切り口から考えてみます。
ULC(ユニット・レーバー・コスト∶単位労働費用)とは、一単位生産するのに必要な労働費用のことで、名目雇用者報酬(労働を提供した人が受け取る報酬の総額)を実質GDPで割って算出します(図表5)。
<図表5 ユニット・レーバー・コスト(ULC)>
図表5から明らかなように、日本のULCは1990年代前半から低迷が続き(新型コロナ以降は横ばい)、上昇を続ける米国との差が歴然です(1990年から2019年まで、米国が年率1.8%であるのに対し、日本は年率マイナス0.1%)。