ハリス氏の変貌?

 まずハリス氏が9月に自身の選挙キャンペーンサイト上に公開した最新の経済政策でも、「米国のイノベーションや労働者をサポートする」という項目で「半導体やクリーンエネルギー、AI(人工知能)、その他の最先端技術において米国がリーダーでいられるように引き続き取り組む」とは説明したが、暗号資産への言及はなかった。

 しかし22日のNYでの資金調達パーティーで「消費者と投資家を保護しながら、AIやデジタル資産のようなイノベーティブな技術を奨励する」と初めて暗号資産(を指していると思われる)に言及した。さらに25日にはブロックチェーン分野での支配的な地位を維持すると演説した。

 ただ、実際にハリス氏がバイデン政権の暗号資産「敵視」政策から転換する可能性は高くなさそうだ。

 同氏が改めて公開した80ページに及ぶ経済政策の中でデジタル資産への言及は1カ所だけで、さらに暗号資産を推進する議員に献金する政治団体Stand With Cryptoが同氏の暗号資産に対する態度をBからN/Aに引き下げており、ゲンスラー委員長の解任や外貨準備への採用を掲げているトランプ陣営との格差は大きい。

 こうしたスタンスの違いを反映して、暗号資産の保有の有無によって支持政党が分かれ始めている。

 しかし、ハリス氏が初めて暗号資産に言及した影響は大きかった。7月末に「ほぼトラ」が怪しくなって以降、下火になっていたETF(上場投資信託)フローが回復したからだ。

 すなわち、親暗号資産のトランプ氏、反暗号資産のハリス氏のどちらが勝つか分からない状況では機関投資家としてはETFを購入しにくかったが、ハリス氏が中立になっただけでも多少は買い始めてもいいかと思い始めたのかもしれない。

中東情勢の混迷

 中東情勢は混迷を続けている。市場が恐れるシナリオはイスラエルとイランとが全面衝突、背後に控える欧米と中ロの代理戦争、さらに周辺国も巻き込んだ中東戦争に拡大することだ。

 ちなみに欧米と中ロとが直接ぶつかる第3次世界大戦とまでなれば、法定通貨からの逃避という意味でBTC人気が高まる可能性もあるが、「戦争」という不透明な状況となると投資家はポジション量を落とそうとするのでボラテリティの高いBTCは真っ先に売られやすい。

 足元の情勢は、7月末にイスラエルがイランの新大統領就任式に出席していたハマス幹部をテヘランで殺害した(イスラエルは公式に認めてはいないが、イラン・サウジアラビアなどが主張)。イランは報復攻撃をガザ地区での停戦を条件に保留した。

 するとイスラエルはイランが支援するヒズボラへの攻撃を激化、遂にはレバノンに地上侵攻するに至り、イランがミサイル攻撃を実施、BTCは6万ドル近辺まで急落した。

 ただ4月にイスラエルがシリア国内のイラン大使館を空爆した際にイランが報復攻撃した時に状況は似ているとの声もある。この時はイランがミサイルなどで攻撃したものの米軍などに事前通告を行い、そのほとんどが迎撃され、逆にイスラエルもイランの空軍基地に小規模な反撃を行った時点で手打ちとなった。

 今回は米軍への事前通告は無く、多少の被害は出ているもようだが、イスラエルはほとんど被害はなかったとしており、同様の経路をたどるかもしれない。イランの新大統領は核協議再開による制裁解除を目指しており、事態の悪化を望んでいないとの見方もある。

 しかし、イスラエルの反撃が思いのほか大規模で、例えば核施設を破壊すると言った場合、イランも国内の主戦派を抑えきれなくなり、事態が泥沼化する可能性もあり注意が必要だろう。

10月見通し

 10月のBTC相場は、米大統領選挙、中東情勢、米景気動向、ドル円相場といった8月の相場を揺るがした材料に左右される展開が続きそうだ。

 米大統領選挙の行方は全く不透明だ。先月申し上げた「トランプなら買い、ハリスなら売り」のハリス売りの部分は幾分和らいだが、それでもトランプ氏なら買いの部分が剥落するだけでも売り要因だ。そうした中、10月に本格上昇するシナリオは描きにくい。

 中東情勢はここから1~2週間がヤマ場だ。イスラエルの反撃にイランが再報復しなければ大きく上昇することになりそうだ。

 米景気悪化懸念は今のところ杞憂(きゆう)に終わり、市場の注目点は11月FOMCの利下げ幅だが次回会合までにもう一度雇用統計を挟むため10月時点では判断がつかない。

 ドル円は植田日銀総裁が利上げ路線を後退させ、石破首相も早期の利上げを否定、円高リスクが

 後退したが、長い目で見た日米金利差縮小の方向性は変わらずまだ予断は許さない。
まとめると、10月の相場は決め手に欠ける展開が続きそうだが、中東情勢次第では上昇する可能性もありそうだ。

 ただし、ETFフローが本格的に戻るのは大統領選挙後と思われ、それまでは上値余地も限定的か。

BTC・ETH ETFフローとBTC/USD

Bloomberg・Farside Investorsより楽天ウォレット作成

テクニカルから見た10月見通し

テクニカル

BTC/USD(日足)

出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 BTCはドル建てで史上最高値を更新した3月以降、下降チャネルを形成。8月に下ひげを付けて割り込んだが、結局ダマしに終わりレンジ内に値を戻している。上昇フラッグと呼ばれ、最終的に上抜けを示唆するといわれている。

 興味深いのはなぜか多くの月で月初に下ひげを付けている。8月にチャネルの下限でサポートされ、チャネルの上限を探る展開に。9月27日に6万6,000ドル台でチャネルの上限に跳ね返されている。

 チャネルの上限で跳ね返されたので、次はチャネルの下限に向かって下がっていくのかというとそうとも言えなさそうだ。9月の安値高値の半値押し5万9,500ドル近辺でサポートされており、また一目均衡表の雲の上限にもサポートされており、3役好転の買いサインも転倒中でまだこの水準でサポートされて上昇トレンドが継続される可能性も残っている。

アノマリー

BTC月別騰落一覧

Bloombergから楽天ウォレット作成

 月別の騰落で見るとBTCは1年で最も弱い8月、9月を1勝1敗でやり過ごし、2月に次いで1年で2番目に強い10月に入った。特に過去9年間で陰線だったのは1回だけ。直近5年連続陽線を続けている。こうした傾向を受け、暗号資産界隈で10月はUptoberと呼ばれている。アノマリー的には10月はポジティブだ。

まとめ

 10月のBTC相場は中東情勢次第ではあるものの底堅い展開を予想する。材料的には、決め手にかける部分があるが、半減期サイクルでそろそろ到来する本格上昇には時期尚早と考える。

 ただし、8月9月と比べ、ハリス氏の暗号資産スタンスがやや緩和され、円高リスクが後退しており、どちらかといえば上方向。中東情勢もイスラエル・イランの全面衝突となれば下抜けしそうだが、イランはそうした事態を避けようとしており、最終的にはポジティブに働きそうだ。

 テクニカル的には半値押しで上下の分岐点にあるが、上昇トレンド継続を示すサインも点灯している。アノマリー的にはUptober入りで、月初は下振れしたが、その分を取り戻す展開を予想している。