緊迫化する中東情勢は市場の脅威となるか?

 その中でも、中東情勢については気を付けておいた方が良いかもしれません。

 今週の10月1日に、イランがイスラエルへ200発近いミサイル攻撃を行い、対するイスラエルも「近いうちに報復する」姿勢を示したことで、中東情勢の緊張感が一気に高まりました。

 これを受けた国内外の市場は、株安や債券高のほか、原油と金の価格上昇、為替のドル安(円高)で反応したものの、すぐに値を戻しており、足元の市場はあまり脅威として受け止めていない印象です。

 市場が現在の中東情勢を深刻なリスクとして捉えていない理由として、「似たような事」が4月にも起こっていたことが挙げられます。

 経緯をもう少し詳しく見て行くと、4月14日に、イランがイスラエル対してドローン数百機と弾道ミサイルによる攻撃を行いました。この日は日曜日だったのですが、これを受けた週明けの市場は数日にわたってリスクオフムードとなりました。

 日経平均も4月12日の3万9,523円から、イスラエルが報復としてイランの軍事施設にミサイル攻撃を実施した19日には3万6,733円の安値をつけるまで下落して行きました。

 その後はイランからの再報復が無く、さらなる事態の悪化や、イランとイスラエルの全面戦争を避けられたということで、市場は落ち着きを取り戻していったわけですが、足元の状況についても、「前回と同様の展開になるのでは?」という見通しが多いようです。

 その根拠として挙げられるのは、イランとしても、「イスラエルと全面戦争へ発展しそうな状況となって、米国が参入してしまう事態を避けたい」という思惑があると見做されているからです。つまり、適度なところで手打ちをし、「一線を超えない」ようにするだろうという見方になります。

 しかしながら、イランとイスラエルとの応酬を時系列で捉えると、少し違った景色が見えてきます。

<図3>2024年4月以降のイランとイスラエルの状況

出所:各種報道などを基に筆者作成

 上の図3で、事象を時系列に追っていくと、イスラエルの方が積極的に行動し、イランを挑発しているようにも見えます。少なくとも、昨年(2023年)にイスラエル南部のレイムの音楽フェスに、パレスチナの武装組織ハマスが襲撃し、多数の死者と人質をとったことから始まった事件からすると、情勢がかなり様変わりしていることが分かります。

 ちなみに、図3でイスラエルの攻撃対象となっている、ハマスやヒズボラといった武装集団はイスラエルをけん制するためのイランの代理勢力と見なされています。

 とりわけ、イスラエルによる在シリアのイラン大使館への空爆については、攻撃対象が大使館という国家主権の侵害に関わる場所であることや、イラン革命軍の司令官などの幹部が殺害された実害も含めると、政治外交的には宣戦布告と受け止められてもおかしくない事件だったと言えます。

 そんな中で、イランは全面戦争に至らないギリギリの範囲で報復しているようにも見えます。

 次はイスラエルの報復攻撃が予想されていますが。攻撃対象が軍事施設なのか、核関連施設なのか、そしてその規模がどのくらいなのかが注目されます。

 そして、中東情勢は、佳境を迎える米大統領選挙とも密接に絡み合っています。

 現政権を踏襲するとされるハリス氏が勝利すれば、イランが歩み寄る余地も生まれると思われ、停戦に向けた動きが期待されるものの、すでに現バイデン政権がイスラエルを制しきれていないことからすると、事態の改善に時間が掛かり、今の状況が継続することが考えられます。

 その一方、親イスラエルとされるトランプ氏が勝利した場合には、積極的にイスラエルに協力し、戦闘が激化してしまう可能性が出てきます。

 状況が悪化すれば、イランが世界の石油輸送の要衝とされるホルムズ海峡の封鎖を強行する展開もあり得るため、その場合には世界経済への影響も出てきます。

 現時点では、まだ積極的に中東リスクを織り込む段階ではありませんが、「十分に市場の脅威となる火種」であることを念頭に置いて、情勢をウオッチして行く必要がありそうです。