「SNSとESGが世界分断の一因」に納得感あり
小規模会場での講演で、皆さまの目が最もスクリーンにくぎ付けになったのが、以下のスライドを示した時でした。金(ゴールド)市場に大きな影響力を持つ中央銀行が、2010年以降毎年、金(ゴールド)の保有高を増やしている背景に世界分断があることを説明していた時でした。
図:自由民主主義指数(2023年)
V-Dem研究所(スウェーデン)は毎年、世界各国の民主主義の状況を数値化して多数の関連する指数を公表しています。上記の自由民主主義指数もその一つです。青が濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが高く、オレンジが濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが低いことを意味します。
日本に住んでいるとほとんどその感覚はありませんが、率直に言って今、世界は分断状態にあります。自由と民主主義を正義とする欧米が中心の西側と(日本を含む)、そうでない非西側の間に明確な分断が生じています。人口シェアで言えば、前者が17%、後者が77%と、圧倒的に自由で民主的な度合いが低い国が優位です。
同指数の推移を確認すると、世界分断が目立ち始めたのは、2010年ごろからでした。そして中央銀行の買い越しが始まったのも、2010年ごろからでした。
筆者は講演で、中央銀行が金(ゴールド)の保有高を増やし続ける背景にある、世界に不安をもたらす「世界分断」は、以下の経路が一因で発生したと述べました。そして、世界分断は、2010年ごろから目立ち始めた「ESG」と「SNS」が一因で生じた可能性があると説明しました。
図:2010年ごろ以降の世界分断発生と金(ゴールド)価格上昇の背景
西側がESG(環境、社会、企業統治)を進める中で、非西側に配慮を欠いた場面があったこと(一方的すぎる石油否定)や、民意がSNS上で濁流と化し、大規模な選挙で民主的とは言い難い結果になったり(2016年の米大統領選、BREXITなど)、武力によって複数の国家が転覆したり(アラブの春)して民主主義の行き詰まりが目立ったことを考えれば、ESGとSNSが世界分断の一因であることを否定することはできません。
上の図のとおり、世界分断が金(ゴールド)価格だけでなく、原油、食品、非鉄金属などの価格を押し上げ、世界的なインフレを加速させています。
世界分断を解消するためには、ESGとSNSを人類から取り上げることが有効ではあるものの、これまで莫大(ばくだい)な投資を続けてきたESGを止めたり、インフラと化したSNSを使わないようにしたりすることはできないと考えられます。
これにより今後も、世界分断をきっかけとした中央銀行の買い越しが続き、長期視点で金(ゴールド)相場が上昇する可能性があると述べました。
講演後、複数の方から直接、世界分断について理解が深まった旨、お言葉をいただきました。「世界全体の視点はこれまでなかった」という趣旨の言葉もありました。世界全体の視点は、金(ゴールド)や原油などのコモディティだけでなく、米国や日本の株式の分析でも重要であると、筆者は考えています。