アプライド・マテリアルズ
1.2024年10月期2Qは、0.2%増収、0.1%営業増益
アプライド・マテリアルズの2024年10月期2Q(2024年2-4月期、以下今2Q)は、売上高66.46億ドル(前年比0.2%増)、営業利益19.12億ドル(同0.1%増)となりました。2022年10月期1Q以降、前四半期比で横ばいあるいは微増収微増益が続いていますが、これは中国の成熟ロジック半導体向け設備投資の増加と2023年10月期に入ってからの中国向けDRAM設備投資の増加に対して、一桁ナノ台の先端半導体向けの調整と、自動車、産業機械向け等の中国以外の成熟半導体向けの調整が相殺したものです。
表4 アプライド・マテリアルズの業績
2.セグメント別、地域別動向
1)セミコンダクター・システムズ
今2Q業績をセグメント別に見ると、セミコンダクター・システムズ(半導体製造装置事業)は、売上高49.01億ドル(前年比1.5%減)、営業利益17.01億ドル(同0.8%減)と前年比、前四半期比ともほぼ横ばいでした。
分野別売上高(会社側開示の分野別売上構成比より楽天証券計算)を見ると、ファウンドリ・ロジック・その他向け(TSMCのような半導体受託生産事業者(ファウンドリ)向けと、インテルやその他のロジック半導体メーカー向け)は、前2Q41.81億ドルをピークとして、前3Q36.94億ドル→前4Q33.69億ドル→今1Q30.44億ドル→今2Q31.86億ドルと減少してきましたが、今2Qは今1Q比でやや回復しました。この分野では、2023年10月期はスマートフォン向け、パソコン向け半導体が在庫調整中だったため、設備投資もAI半導体向け、パワー半導体向けなどの重要分野を除き減少していましたが、2024年10月期に入ってスマートフォン向け、パソコン向け半導体の在庫調整が終わり、この分野の設備投資も復調してきました。
DRAM向けは、前3Q7.95億ドルから増加し始め、前4Q13.18億ドル→今1Q16.69億ドル→今2Q15.68億ドルとなりました。前4Q、今1Qと中国向けDRAM用製造装置が急増しました。今2Qも中国のDRAM投資は活発でしたが、売上高は今1Qがピークだったと思われます。
NAND向けは低調な状況が続きました。
表5 アプライド・マテリアルズ:セグメント別業績(四半期)
表6 アプライド・マテリアルズのセミコンダクター・システムズ分野別売上高
グラフ3 アプライド・マテリアルズ:セミコンダクター・システムズの分野別売上高
2)アプライド・グローバル・サービス
アプライド・グローバル・サービス(AGS)では、保守サービスと200ミリウェハ対応製造装置を扱います(セミコンダクター・システムズは300ミリウェハ対応製造装置を扱います)。今2Qは、売上高15.30億ドル(前年比7.1%増)、営業利益4.36億ドル(同13.5%増)となりました。販売した半導体製造装置が積み上がるに連れて、堅調に成長しています。AGS売上高の80%以上が定期サービスと部品販売で、さらにこのうち3分の2が長期サービス契約で、この長期サービス契約の更新率は95%になります。AGSは安定収益源となっています。
3)ディスプレイ・周辺市場
ディスプレイ向けは事業が小さくなっています。回復期待も乏しいと思われます。
4)地域別売上動向
地域別売上高を見ると、台湾向けが今1Q5.59億ドルから今2Q10.19億ドルへ増加しました。アメリカ向けも同7.59億ドル→8.53億ドルへ増加しましたが、ヨーロッパ向け、日本向けが減少し、最も売上高が大きい中国向けが同29.97億ドル→28.31億ドルへ減少したことにより、全体の売上高も前四半期比で減少しました。
表7 アプライド・マテリアルズの地域別売上高
3.2024年10月期は業績横ばい、2025年10月期以降は新技術の収益貢献で再成長が予想される
会社側の今3Q売上高ガイダンスは、売上高66.5億ドル(前年比3.5%増)±4億ドルです。セグメント別売上高の会社予想は表5の通りですが、今3Qも主力事業のセミコンダクター・システムズは前年比、前四半期ともにほぼ横ばいとなる見込みです。中国向けの緩やかな減少を、先端ロジック向け、中国向け以外の成熟ロジックの伸びで相殺するという構図が今3Qも続くと思われます。
ただし、今4Qまたは来期2025年10月期に入ると、転機が訪れると会社側は考えています。半導体の中でも最先端ロジックと最先端メモリの両方で、新しい生産技術が生産現場に入っていくと思われます。
具体的には、
ゲートオールアラウンド:トランジスタの構築法がこれまでの「FinFET」から「ゲートオールアラウンド(GAA)」へ移行する。GAAによって省エネ、パフォーマンス向上、チップ面積の削減が実現できる。GAAへの移行はすでに始まっているが、2025年10月期により大きな動きになると予想される。
バックサイド・パワー・デリバリー:3ナノ以下の微細化を実現するための技術で、ウェハの表面は信号処理、裏面は電力供給と役割を分ける。これによってチップの構造を効率化し、コスト削減も実現する。
先端DRAM:DRAMメーカーにおいて、DRAMのパフォーマンス向上と省エネ化のために、DRAM本体の周辺回路にロジック回路を実装することが一つの流れになっている。この傾向は、ロジックに強いアプライド・マテリアルズがDRAM市場で市場シェアを伸ばすときの強みになっている。
HBMと先端パッケージング:HBMはDRAMの最新規格「DDR5」のウェハを8枚積層し、さらにロジック回路を描いたウェハを1枚加える。積層するやり方にはいくつかあるが、アプライド・マテリアルズはハイブリッド・ボンディング(チップtoウェハとウェハtoウェハ)とTSV(Through silicon via)の分野でも製造装置を販売している。
ICAPS(IoT、通信、自動車、パワー、センサー):成熟ロジック半導体でも成長分野がある。1つはエッジコンピューティングであり、特にスマートフォン、産業、ホームオートメーション向けIoTデバイスの需要が増えており、この分野では28ナノの需要が増加している。次は、EV向け、再生可能エネルギー向けパワー半導体である。
これらの新技術でアプライド・マテリアルズは各々の市場を獲得しようとしています。今回の決算電話会議では、ゲートオールアラウンドからの売上高が2024年10月期予想25億ドル以上で、2025年10月期は2倍以上(50億ドル以上)になる可能性があることが会社側から示されました。HBMパッケージングからの売上は2024年10月期6億ドル以上(前年比6倍)、HBM向けを含む先進パッケージング全体では2024年10月期約17億ドルになると会社側は予想しています。HBM関連と先進パッケージング分野は2025年10月期も増加すると予想されます。これにICAPS向けの増加を加えると、中国向けの減少を補って2025年10月期は二桁増収増益が予想されます。
楽天証券では、2024年10月期を売上高269億ドル(前年比1.4%増)、営業利益78億ドル(同1.9%増)、2025年10月期を売上高320億ドル(同19.0%増)、営業利益99億ドル(同26.9%増)と予想します。2024年10月期、2025年10月期ともに、前回予想に対して下方修正しました。下方修正要因は、セミコンダクター・システムズの下方修正です。
ただし、下方修正はしましたが、今期から来期に向けて、ゲートオールアラウンド、バックサイド・パワー・デリバリー、HBM関連、先進パッケージング関連、ICAPS向けの伸びが加わることで、アプライド・マテリアルズは再成長に向かうと思われます。
表8 アプライド・マテリアルズ:セグメント別業績(年度)
4.アプライド・マテリアルズの今後6~12カ月間の目標株価を前回の270ドルから290ドルに引き上げる
アプライド・マテリアルズの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の270ドルから290ドルに引き上げます。
楽天証券の2025年10月期予想EPS10.26ドルに、2025年10月期の楽天証券予想営業増益率26.9%、2024~2025年に半導体生産技術がロジック、メモリの両分野で大きく変化するだろうと思われることから、PEG=1.0~1.1倍と若干プレミアムを付け、想定PERを25~30倍としました。
引き続き中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄:マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ)、アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)