アドバンスト・マイクロ・デバイス
1.2024年12月期1Qは、2.2%増収、小幅黒字転換
アドバンスト・マイクロ・デバイス(以下AMD)の2024年12月期1Q(2024年1-3月期、以下今1Q)は、売上高54.73億ドル(前年比2.2%増)、営業利益0.36億ドル(前年同期は1.45億ドルの赤字)となりました。
前1Qと比較すると、データセンター・セグメントはAI半導体の好調で大幅増収増益となり、クライアント・セグメントは小幅ながら黒字転換しましたが、ゲーミング・セグメント、エンベデッド(組み込み)・セグメントが大幅減収減益となり、全社では低水準の業績となりました。
表4 AMDの業績
表5 AMD:セグメント別業績(四半期)
2.セグメント別動向:AI半導体が好調
1)データセンター
今1Qのデータセンター・セグメントは、売上高23.37億ドル(前年比80.5%増)、営業利益5.41億ドル(同3.66倍)となりました。
2023年12月期4Q発売の新型AI半導体「Instinct MI300シリーズ」、特にAI用GPU「MI300X」が好調でした。会社側によればAI半導体は前4Qからの累計売上高が10億ドル以上になりました。楽天証券の推定では前4QのAI半導体売上高は約5億ドルであり、今1Qは推定6~7億ドルと思われます。「MI300シリーズ」の需要は強く、会社側は2024年12月期のAI半導体売上高予想を当初予想の35億ドル以上から40億以上に上方修正しましたが、さらに増産することが十分可能という見通しです。今はクラウドサービス会社と大規模データセンターの顧客が多いですが、今2Qには「MI300シリーズ」を搭載した企業向けAIサーバーが複数の大手サーバーメーカーから量産される見込みです。
また、今年後半から来年にかけて「MI300シリーズ」の後継機を発売すると思われます。
サーバー用CPUも最新型の第4世代EPYC中心に好調です。この分野では、次世代EPYC「Turin(チューリン)」を今年後半に発売する予定で、すでにサンプル出荷を行っています。
今2Qもデータセンター・セグメントは好調が予想されます。今通期会社予想では前述のようにAI半導体売上高は40億ドル以上となっていますが、楽天証券では50億ドルと予想します。これは「MI300シリーズ」がTSMC6/7ナノで生産されており、この微細化世代のラインが比較的すいていると思われるためです。また、エヌビディアのAI半導体「H100」によってAI半導体市場は巨大市場になりましたが、巨大市場には「隙間」ができることが多いのです。「隙間」という意味はエヌビディアのAI半導体だけでAI半導体に対する需要の全てをカバーできるわけではないということです。そして、巨大企業がさらに大きくなることによって、この「隙間」も大きくなると予想されるのです。加えて、AI半導体の需要家にはエヌビディアのAI半導体だけを調達することにリスクを感じる向きも多いと思われます。
このような観点からみると、AMDのAI半導体の成長余地は大きいと思われます。来期2025年12月期は新製品投入によってAI半導体の単価が上昇すると予想されることもあり、楽天証券ではAI半導体売上高を150億ドルと予想します。急成長が予想され、2025年12月期のAMDのAI半導体の増収率はエヌビディアのデータセンター向けの2026年1月期楽天証券予想増収率50%増を上回ると思われます。ただし、エヌビディアとの規模の差を急速に縮小することは難しいと思われます。
第4世代EPYCと次世代「Turin」も順調に伸びると予想されるため、データセンター・セグメントは今期、来期と業績好調が予想されます。AMDの業績を牽引すると予想されます。
表6 データセンター・セグメント売上高内訳(楽天証券推定)
2)クライアント
今1Qのクライアント・セグメントは、売上高13.68億ドル(前年比85.1%増)、営業利益0.86億ドル(前年同期は1.72億ドルの赤字)となりました。最新型Ryzenのモバイル向けが前年比約2倍、デスクトップ向けが同二桁増でした。AI処理機能強化型のノートブック向けCPUである「Ryzen8040」が好調でした。今2Qからはデスクトップ向けのAI処理機能強化型CPUである「Ryzen Pro 8000」を投入しています。
また、Ryzenの次世代版モバイルプロセッサー「Strix Point」を2024年年末までに投入する予定です。AIパソコンのノートブック向けのCPUの品揃えを強化する方針です。
AIパソコン向けプロセッサーの増加によって、今期、来期とも売上高は好調が予想されますが、インテルも同種のプロセッサーを発売しているため、インテルとの競合があります。このため、クライアント・セグメントの営業利益率が在庫調整が始まる前の2022年12月期の19.2%まで回復するかどうかは不透明です。そのため、楽天証券の今期、来期業績予想では売上高はほぼ前回予想通りですが、営業利益予想は増益予想ながら前回予想から下方修正しました。
3)ゲーミング
今1Qのゲーミング・セグメントは、売上高9.22億ドル(前年比47.5%減)、営業利益1.51億ドル(同51.9%減)と大幅減収減益となりました。マイクロソフト、ソニーグループのゲーム機の販売台数が下降局面入りした結果、ゲーム機向けチップセットが減収となりました。パソコン用GPUの「Radeon」も減収となりました。
今2Qも前年比、前四半期比ともに減収減益が予想されます。マイクロソフト、ソニーグループの次世代機はこれまで通り後方互換性を付けると思われるため、次世代機のチップセットもAMD製になる可能性が高いと思われますが、いつ発売されるか不明です。そのため、当面はゲーミング・セグメントの成長は期待できないと思われます。
4)エンベデッド(組み込み)
今1Qのエンベデッド(組み込み型半導体。売上高の大半が旧ザイリンクスの事業)は、売上高8.46億ドル(前年比45.8%減)、営業利益3.42億ドル(同57.1%減)と大幅減収減益となりました。コロナ期に半導体不足になることを恐れて積み上げた自動車向け、通信向け等の在庫調整が続いています。ただし、営業利益率は40.4%と在庫調整前の50%台と比べると下がりましたが、高水準です。
今3Q以降は在庫調整も終了し、業績は緩やかに回復すると予想されます。その場合は、全社業績に対する寄与が再び大きくなると思われます。
なお、今1Qのその他営業損失は10.84億ドルで、前1Qの営業損失12.33億ドルから減少しました。このうち、旧ザイリンクス等ののれん代償却が前1Q8.23億ドル→今1Q6.22億ドル、ストックオプションの評価額が同3.09億ドル→3.71億ドル、買収関連とその他費用が同1.11億ドル→0.39億ドルとなっており、今1Qはそれらに加えて在庫評価損0.65億ドルが加わっています。旧ザイリンクスののれん代償却が減少すれば、全社営業利益を持ち上げることに繋がります。
3.楽天証券の2024年12月期業績予想を下方修正、2025年12月期業績予想を上方修正する
各セグメントの状況と今後の見通しから、楽天証券では2024年12月期を売上高262億ドル(前年比15.5%増)、営業利益18億ドル(同4.49倍)、2025年12月期を売上高400億ドル(同52.7%増)、営業利益70億ドル(同3.89倍)と予想します。前回予想からは今期予想は下方修正、来期予想は上方修正となります。
今期、来期は、AI半導体が属するデータセンター・セグメントが全社業績を牽引すると予想されます。
表7 AMD:セグメント別業績(通期)
4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の220ドルを維持する
今後6~12カ月間のAMDの目標株価は、前回の220ドルを維持します。
AI半導体のブームは長期ブームになると思われることから、長い視点で見て、2025年12月期の楽天証券予想EPS3.64ドルに成長性とエヌビディアとの競争リスクを織り込んで想定PER60~70倍を当てはめました。
引き続き中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、NASDAQ)