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著者の白石 定之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「日本企業の業績は、円安のハシゴを外すと実はほとんど伸びていない!?」
上場企業2024年3月期決算、円安を背景に純利益過去最高を更新
国内上場企業の2024年3月期決算がほぼ出そろい、純利益は3年連続で過去最高を更新するなど、企業業績は好調な状態にあります。
なぜ日本企業の業績が好調なのかについては、円安の効果が一番大きいと私はみています。では、実際に円安の効果がどれくらいあるのかについて、今回は分析をしていきたいと思います。
どのように分析をするのかですが、まず企業利益については、独自分析している「日経平均 来期・再来期調整予想EPS(1株当たり純利益)」を用いることとします。
これは、日経平均株価構成銘柄の来期と再来期のアナリスト予想を基に、日経平均の予想EPSを独自に調整し、算出しているもので、24カ月先のEPSをイメージしたものとなっています。
また、円安の効果を測る上では、日本銀行が公表している「円インデックス(名目実効為替レート)」を用いることとします。
分析のイメージは、次のようなものになります。
例えば、1ドル100円のときに、1,000億円の利益を上げていた企業があったとすると、この企業はドル換算では10億ドルの利益を上げていることになります。
この企業が1年後に50%増の1,500億円の利益を上げたとしても、その時の為替が1ドル150円であれば、ドル換算では10億ドルで変わっていないということになります。
このように、日本人からすると50%増と絶好調に見えますが、ドルベースでは変化はなく、米国人からするとプラスマイナス0%の横ばいに見えるということになります。
これを、利益については「日経平均 来期・再来期調整予想EPS」で、為替については単一通貨ではなく総合的な「円インデックス」を用いて計算し、グローバルな視点から見たときにどうなっているのかを分析しようというものです。
円安が日本企業にもたらす効果はどのくらい?
まずは、円ベースでの「日経平均 来期・再来期調整予想EPS」の前年比増減率と、日経平均株価の推移を見てみると、次のようになっています。
(グラフ1)日経平均と企業業績の関係(1)
予想EPSの前年比増減率は、2021年2月第4週にプラスに転じて以降、3年3カ月経過した現在もプラス状態が続いていて、足元においてはプラス14.6%と、非常に好調な状態となっています。
では、このグラフから円安の影響を除くとどうなるのかを見てみると、次のようになります。
(グラフ2)日経平均と企業業績の関係(2)
為替調整後の前年比増減率である橙色の線は、2022年9月第5週にマイナスになり、その後、2023年6月第5週にプラスに転じていますが、足元においてもプラス3.0%で、企業業績はあまり伸びていない状態となっています。
為替調整前の足元の値がプラス14.6%なので、円安によって予想EPS前年比増減率が持ち上げられている分はプラス11.6%となり、伸び率の大半が円安効果によって持ち上げられているということになります。
グラフに黄色で示したように、ここ3年間ずっと、この円安効果によって企業業績は持ち上げられ続けています。特にここ2年弱は、前年比での利益の伸びの大半は円安要因で、円安のハシゴを外すと、日本企業の業績は実はほとんど伸びていないという状態になっています。
これは、裏を返せば、円高に振れると企業業績の円ベースでの伸び率は急速に低下するということを意味しています。
実際には円安によって支えられている面も大きいため、日本企業の業績について、円ベースの数字だけを見て好調だと判断するのではなく、今後については為替次第で、円安が続けば好調が持続する可能性は高いけれども、円高に振れると案外もろいということも併せて認識しておいたほうがよいのではないかと私は考えています。
投資はあくまでも自己責任で。