米CPIを受けて株式、債券、ゴールド、暗号資産が急騰

 市場が注目していた米CPI(消費者物価指数)は前月比で予想を下回る伸びとなった。CPIがわずかに下回ったことで利下げ期待が高まり、株式、債券、ゴールド、暗号資産が急騰した。もちろん、ウォール街は歓声を上げた。なぜなら彼らは、経済が悪化してFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げやQE(量的緩和)といった金融緩和政策を再開することを祈っているからだ。

 ピーター・シフは、「本日の4月の消費者物価指数の発表について、祝うべきことは何もない。年率0.3%の上昇で、インフレ率は4%近くになる。しかし、全ての経済データやその他のデータは、将来的にCPIがもっと大きく上昇することを示している。もしFRBが利下げをするためのインチキな口実が必要なら、投資家はCPIがその口実になることを望んでいる」と述べた。

 米国のインフレ率は現在37カ月連続で3%を超えており、これは1980年代後半から1990年代前半以来最長のインフレ期間となっている。

米国CPIインフレ率の推移(1948~2024年)

出所:クリエーティブプランニング

 ピーター・シフが指摘しているように、昨日の米国の経済データはスタグフレーション(不景気の物価高)の三重奏だった。4月の小売売上高、5月のエンパイアステート製造業は予想を大きく下回った。4月のCPIはさらに0.3%上昇し、前年比3.4%の上昇となった。

 小売売上高は減少し、インフレは再び上昇し、失業率は上昇している。これを経済学ではスタグフレーションと呼ぶ。

 バイデン政権は11月の大統領選挙に勝つために膨大なカネをばらまき、金利とは関係のないところで緩和的な政策をずっと続けている。利下げも利上げも今の市場にはほとんど関係ない。

 S&P500種指数は今年23回目の史上最高値更新を記録し、2023年10月以降29%上昇した。2024年1月以降、株式市場はすでに合計4回の利下げが織り込まれているにもかかわらず、指数は2024年の5月までに11.5%上昇している。

 MMT(現代貨幣理論)によるばく大な赤字増大と34兆ドルの国家債務が証明しているように、現在の米国は大恐慌時のような経済刺激策を続けている。なのに、一体どうしてウォール街は利下げを期待するのだろうか?

米国の債務残高(1800~2024年)

出所:Game of Trades

FF金利の市場予想

出所:クリエーティブプランニング

 米国の株式市場は高値更新相場を続けている。このような環境で利下げは必要なのだろうか?

S&P500CFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ナスダック100CFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

NYダウCFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 自社株買い、助成金、高金利への抵抗、膨大な現金残高、新産業への進出、ロビー活動、競合企業の買収能力により、ビッグテックはメガテックになる。米国株式市場での銘柄の選択肢は、ビッグテックを買うか、ビッグテックが買うものを買うかという2択となっている。

エヌビディア(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

マイクロソフト(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

メタ・プラットフォームズ(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

アップル(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 米CPIと小売売上高の発表を受け、米10年債利回りは低下した。それを受けて、ドルインデックスは1カ月以上ぶりの最低水準に下落している。とりあえず日本銀行は安堵(あんど)しているだろう。

ドルインデックス(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

ドル/円(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ユーロ/ドル(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米国が低金利とQEに戻れば、インフレは爆発的に進むだろう。一方で金利上昇と景気刺激策にとどまるなら、11月の米大統領選挙後の世界的な株の下落は避けられないのかもしれない。

 中国は記録的なレベルでゴールドを購入している。そして、ロシアに倣ってドルへのエクスポージャーを減らそうとしている。2022年と2023年だけでも、世界の中央銀行はそれぞれ1,081トンと1,037トンのゴールドを購入した。

ゴールドCFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 政治的、ファンダメンタルズ的、経済的背景が中期的に投資家にとってより敵対的なものとなっていく中、これから損失に対する「ヘッジとしての現金の価値」を理解することがより重要になってくる。

「ゴールドはお金です。それ以外はすべて信用です」

(ジョン・ピアポント・モルガン)

エクスターの逆ピラミッド(金融資産の階層)

出所:Gainesville Coins