【Q6】直販ではなくネット証券で販売する理由は?

【A】直販にこだわりすぎるとサービスの低下が懸念されるから

――セゾン投信時代には、特定の販売会社の影響を受けない直販スタイルにこだわり、投資家との対話を重視されてきた中野さんですが、なかのアセットマネジメントでは一転して、ネット証券で販売されます。この意図をお聞かせください。

中野 私たちは個人投資家の方とのコミュニケーションを重視しているので、ぜひとも直販でやりたい、という気持ちはもちろんありました。ただ、時代の変化とともに直販という事業モデルが成立しづらくなっており、そこにこだわりすぎるとサービスの質が低下するリスクがあったことから、別の選択肢を模索しました。

 対面の金融機関ではなくネット証券での販売を選択したのは、商品を売りたい販売会社からの圧力が働かず、私たちの商品を必要としている人がアクセスしやすいインフラだと考えたからです。直販ではなくなっても、今後もまた別の形でのコミュニケーションを重視しながら、投資家のみなさんに寄り添うパートナーでありたいと考えています。

【Q7】長期の積立投資をする人が増えた現状をどう見る?

【A】大成功。ただ、オールカントリー一辺倒には注意点も

――2024年1月に新NISAが始まり、一気に長期投資・資産形成の機運が高まっています。長年、長期投資の啓発に努めてこられた中野さんは、現状をどのようにご覧になっていますか?

中野 NISA制度の設計にあたっては、私も少なからず関わらせていただきました。今は、事前に想定したのとほぼ同じ形になっていますし、長期投資の普及につながったという意味では大成功と言えます。

 ただ、一点懸念しているのは、多くの人が「とにかくオールカントリー(※「全世界株型」のインデックス型投資信託)を買っておけば、必ず値上がりする」と思っているところです。「みんなが大丈夫と言っているから、よく分からないけど買った」という声も増えていますが、商品のことをまったく理解せずに買うのは考え物です。

 言うまでもなく、必ずもうかる投資信託なんてありませんし、マーケットの状況もいつかは変わります。今後、持っている投資信託の価格が大幅に値下がりする局面も訪れるでしょう。そんなとき、深く考えずに投資していると、値下がりに驚いて投資をやめてしまう人がたくさん出てくるはずです。

 そのような形で長期投資に頓挫してしまうことがないよう、あらかじめ商品性やリスクについて知っておいてもらいたいですね。

【Q8】個人投資家が日本株にあまり注目していないが・・・?

【A】今後も上昇余地があるので、目を向けてほしい

――2024年は日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を突破し、この先にはさらなる上昇を見込む声も出ています。外国人投資家がますます旺盛に日本株を売買する半面で、日本の個人投資家は日本株より米国株に注目する傾向が見られていますね。

中野 せっかく盛り上がっているのに残念です。NISAでの投資も、ほとんどがS&P500種指数やオールカントリーを始めとする海外資産のみに回ってしまって、日本株に日本人のお金が回っていない状態です。長いデフレを脱してインフレ時代に突入し、今後しばらくはインフレが続くでしょう。

 すなわち、株価が自然に上がりやすい環境が整いつつあるわけですから、調整を挟みつつも長期で日本株は上昇する可能性が高いと考えています。

 海外に目を向けて、分散投資をすることは非常に有用ですし、大切なことですが、個人投資家のみなさんにはぜひ、日本株にも注目していただきたいです。

【Q9】これから日本はどんな国になってほしい?

【A】本当の意味での「資産運用立国」を実現へ

――先のお話にもありましたが、インフレ時代が始まり、株価が新たな水域に突入し、多くの人がNISAを通じて積立投資を始め、日本は大きく変わろうとしています。一方で、GDP(国内総生産)は伸び悩み、記録的円安で競争力の低下への不安も広がっていますが、中野さんはこの先、日本はどうなるのか。あるいはどうなってほしいとお考えなのかお聞かせください。

中野 時代の変化に合わせて産業界が経済構造を作り替え、適正に給与を増額するなどの対応をとることが急務です。日本は「資産運用立国プラン」を掲げており、現預金を投資に回して企業価値を向上させ、その恩恵が家計に還元され、さらなる投資や消費につながるという循環の創設を目指しています。

 マクロの対策が奏功すれば「もっと自分たちの社会をよくしたいから、日本に投資しよう」という発想も生まれやすくなるのではないでしょうか。そうした思いが世間の共通認識になったとき、日本は本当の意味で資産運用立国を実現できると思います。

【Q10】「つみたて王子」、次はどこへ行く?

【A】泥臭く、つみたて王子をやります

――今回のお話を通して、中野さんは本質的にこれまでと変わることなく、長期積立投資の方針を貫かれていく、ということがよく分かりました。ただ、これまで「つみたて王子」と呼ばれ、キラキラしていた印象だったところが、少し雰囲気が変わられた印象です。

中野 そうですね、王子と言っていただくには、いい年になりましたし。昨年の退任から、新会社の立ち上げ、商品の立ち上げというところで、本当に多くの経験をして、苦労も味わいましたし、勉強をさせていただきました。

 キラキラというより、いろんな経験を通じて泥臭いところが出てきたかもしれません。でも、せっかく付けていただいた名前ですし、「一生涯、つみたて王子」で行かせていただこうかと思いますが、これまで以上にどっしりと構えてやっていきたいですね。

<お話を聞いたのは>
なかのアセットマネジメント
代表取締役社長

中野晴啓

 1963年生まれ。明治大学卒業後、セゾングループの金融子会社で、資産運用業務に従事したのち、2006年にセゾン投信を設立。日本に長期積立投資を通じた資産形成を根付かせるべく、全国各地で公演やセミナーを続けた結果、「つみたて王子」の愛称で呼ばれるように。2023年6月にセゾン投信を退任後、同9月、なかのアセットマネジメントを設立。2024年4月、新ファンド2本を設定し、本格的な船出となった。