FRB高官は相次いで慎重発言

 4月2日サンフランシスコ連邦準備銀行のメアリー・デイリー総裁は「基本シナリオとして年内3回の利下げは理にかなったシナリオには違いないが、足元の米国の景気は強く、いますぐに利下げしなければいけないという緊急性は感じられない」と発言しました。

 同じ日、クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁も「利下げを開始する前にインフレが鎮静化の方向へ向かっているという証拠を見たい」と発言しました。

 4月3日のスタンフォード大学でのスピーチでパウエル議長は「現在の景気が強いこととインフレ退治の面での進捗(しんちょく)度合いを勘案すると今後の経済統計を確認した後で政策金利をどうするかについて考えるだけの時間的余裕はある」とコメントし、急いで利下げする気はないことをシグナルしました。

 これらの発言から5月1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で「下ごしらえ」として6月利下げがほのめかされる可能性は後退しました。

「1回で終わり」シナリオの台頭

 一方、先週末、米国の投資週刊誌『バロンズ』で機関投資家に最も読まれている「アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート」というコラムが「利下げは1回だけかも」という記事を載せました。

 現在の市場参加者のコンセンサスは年内3回の利下げですので1回だけとなると落胆するトレーダーも居ると思います。

 しかし逆の見方をすれば米国経済がソフトランディングした1990年代半ばにも「ちょっと利下げしかけたけれど……やっぱり経済が強いので止めた」というエピソードはありました。その時の株式市場は好調でした。

 だから今回AIブームにわく米国が当時のドットコムブームの大相場のような展開になるシナリオでは連続利下げは必ずしも必要ないのです。

政策金利決定枠組みの見直し

 上で言及したスタンフォード大学でのスピーチでパウエル議長は「政策金利決定枠組みの見直しに入る」という宣言をしました。政策金利決定枠組みとはFRB(米連邦準備制度理事会)が実際に政策金利を動かす際、どのようなポイントに気を付けて決断するか?という細かい行動の指針だと思ってください。

 FRBが米国下院から授かっている使命は「物価を2%で安定させろ!」ということですが、政策金利の上げ下げが実体経済に効いてくるためには相当のタイムラグがある関係で、これまではインフレが2%に近づきそうになると「見切り発車」で早めに予防的な利上げに動くというのがFRBの基本的な態度でした。

 しかし5年前の見直しの際は長期にわたる低インフレが続いた関係で「そんなに慌てて利上げしなくてもいい。一定期間を取ってならしてみればインフレが2%に収束するのなら、少々のことは大目に見よう」という新方針が決定されました。

 新型コロナ後の経済再開の局面では、この新方針に忠実にFRBは利上げに関してわざとゆっくりと重い腰を上げました。それがあだとなってインフレは9%に迫る水準まで悪化し、結果としてFRBは大失態を演じてしまったのです。

 この苦い教訓はFRBメンバーには新しい記憶であり、今回はこの反動でかなり厳格な政策金利決定枠組みが立案されることが予想されます。つまりタカ派になるということです。

株式市場はどう動く?

 以上をまとめると4月に入ってタカ派的な材料が増えたと総括できると思います。株式市場はさらなる上昇のための推力を失った感があります。目先はこれらの材料を消化し、リズムを整える必要があります。それさえしっかり織り込めば、また相場は上昇を再開するでしょう。