2006~2007年と今との大きな違い~金融不均衡への懸念と「2%」~

 2006~2007年当時と比べれば、物価上昇率や為替水準などからみて、今の方がはるかに利上げの環境が整っているように思えます(図表1)。しかし、当時との大きな違いが二つあります。一つは、サブプライム住宅ローンのようなきな臭い話が今のところ聞かれないこと、二つ目は「物価安定の目標」(消費者物価上昇率2%)を設定していることです。

<図表1 各種経済指標の局面比較>

(注)春闘の賃上げ率は連合の最終集計結果(24年は第1回回答集計結果)。潜在成長率とGDPギャップは内閣府推計値。
(出所)総務省、内閣府、厚生労働省、連合、日本銀行、ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 バブルの萌芽のようなきな臭い話も伺われず、「物価安定の目標」実現が見通せる状況になったといっても、本当に実現するか確証が持てない今の段階で、正常化だけを理由に追加利上げを行っていくというのは、確かに「2%」が実現しなかったときのリスクが大きすぎ、植田日銀にとって無理筋だということは理解できます。

植田日銀にとって当面のリスクは円安

 となれば、やはり植田総裁が指摘するように、追加利上げの決め手になるのは経済・物価見通しの上振れということになります。しかし、今年1月の「経済・物価情勢の展望」では、2025年度の消費者物価(除く生鮮食品)の見通しが前年比1.8%とすでに2%に近く、これを上方修正するのでしょうか。それはそれで思い切った予測になります。

 あるいは、前回のレポートで指摘した通り、見通しを少しだけ上方修正した上で、「2%」の持続的・安定的な実現の確度が一層高まったと説明するのでしょうか。そうした目線で改めて植田総裁の下の発言を読むと、なんとなくその可能性を考えているようにも感じます。

2%の持続的・安定的実現の確率という観点で申し上げれば、まだ100%ではないわけですけれども、だんだん上昇してきて(中略)、大規模緩和の解除に必要な、ある種の閾値を超えたということで、今回の判断に至ったということでございます。

さらに、それが上昇するということになれば、見通しが変わったという言い方になるかと思いますが(中略)、また政策金利水準の引き上げにつながるということになるかと思います。
(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 植田総裁は、経済・物価見通しの上方修正までして追加利上げなどしたくないと思っているのではないでしょうか。実際、インフレ率が「2%」に収束していくか分からないわけですし、欧米景気や政治の不確実性、海外中央銀行の動きなどを踏まえれば、当面、このまま様子を見るのがベスト・プラクティスといえます。

 問題は為替です。為替が過度に円安に振れるようなことがあれば、輸入物価の上昇を通じて再びインフレ圧力が強まり、消費などをますます抑制することになります。為替が政策変更の直接的な理由になることはありませんが、日銀の背中を押すことはあり得ます。その場合は、経済・物価見通しの上振れが表の理由、円安抑止が裏の理由ということになります。