円の購買力が「長期下落トレンド」をたどっている現実

 米国株式や世界株式に長期分散投資を実践していく意義について、日本居住者の立場で考えたいと思います。図表2は、通貨としての「円」の総合的な実力を示す「実質実効為替レート(月次)」の推移を示したグラフです。

 約60カ国の通貨に対する円の「対外的な購買力」を、貿易量や物価水準を基に算出したレート(総合的な通貨指数)です。2024年1月時点のレートは72.87で、円の購買力が約50年ぶりの低水準に下落した(円安が進行してきた)ことを示します。変動相場制に移行した1973年2月の水準を下回る長期下降トレンドです。

 最近の円の購買力低下を実感いただくために「ラーメン」の例を示します。全国展開している「博多一風堂」の「白玉元味」の単価は850円で「消費税込み」でも1,000円未満で楽しめます。

 一方、米国のニューヨーク(NY)市にある一風堂で同じ注文をすると、20ドルで約3,000円(1ドル=150円で試算)となり、これにNY州の消費税(Sales Tax=8.9%)とチップ(20~25%が伝票上の選択なので22%として)を加えると26.18ドル(計4,000円弱)かかります。

 基本的に日本にはチップはありませんが、米国ではサービス料金が上昇傾向となっています。海外からのインバウンド(訪日外国人観光客)の方々が「日本のラーメンは安くておいしい」と好評である理由がよく分かります。

 海外投資家から見ると、「日本は(ラーメンだけでなく)不動産も株式も安い」と注目されやすいことを、円の下落傾向が示しています。実質実効為替レートの下落は、日本企業の輸出競争力向上(業績拡大)につながりやすい一方、モノやサービスの輸入コストは増加しやすく、価格転嫁と物価高が進む中で賃金上昇が追いつかないと、一般庶民の家計を圧迫する要因となります。

 換言すると、日本居住者(投資家)が新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を利用して米国株式や外国株式への長期分散投資を増やしている投資戦略は、こうした円の購買力低下トレンドに沿った「道理にかなう資産運用」と言えそうです。

<図表2>円の「対外的な購買力」は50年ぶり低水準に下落

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2024年1月)