ETFによる影響はこれからが本番

 こうしたニューマネーが入った結果、この大相場が発生した。従来の暗号資産市場の中心とされるミレニアル世代よりベビーブーマー世代の方が、資金は潤沢であろうし、例えば金ETFの運用総額は900億ドルを超えており、まだこのシフトが続く可能性がある。

Fidelity All-In-One ETFシリーズ 資産配分

出典:フィデリティHPより抜粋

 さらに大きな材料になりそうな面白い動きがある。フィデリティがカナダで運用するAll-In-Oneというシリーズのファンド・オブ・ファンズに、BTC ETFを1~3%組み入れ始めた。

 すると、ブラックロックが米国で運用するBSIIX(ブラックロック・ストラテジー・インカム・オポチュニティーズ・ポートフォリオ)というファンドに、BTC ETFを加えるように申請を出した。後者の運用資産は360億ドルを超す。

 またロケットスタートを切ったBTC ETFだが、本格的な買いはこれからという見方もある。ETF運用会社のひとつビットワイズのCIO(最高情報責任者)は、「ETFの買い手は個人やヘッジファンドなどが中心で当初期待されたような伝統的な機関投資家の参入はまだ」とコメントした。

 また、当初BTC ETFを取り扱わなかったモルガン・スタンレーやウェルズ・ファーゴ、バンカメメリル(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)といった大手証券会社が参入ないし準備していると報じられた。

BTC ETFを買った理由

 では、ベビーブーマー世代など米投資家はなぜBTC ETFを購入しているのだろうか?

 この点、BTCを保有したことがない多くの投資家は「BTC投資家はBTCが上がりそうだから買っている」と誤解している部分がある。もちろん、値上がり期待で買っているのだが、なぜそう思っているのかという部分が重要で、これを理解していないとBTCが単に投機的に乱高下しているとしか見えなくなってしまう。

各種資料より著者が作成

 BTC投資家には、「仲介者のないオンライン決済」を実現した先進性に感銘を受け、先行者メリットを取りに行こうとする、いわば「ブロックチェーン派」と、プログラムが自動発行し、国家の影響を受けない点に着目し、乱発を続ける法定通貨の減価に対するヘッジとして購入する「デジタルゴールド派」がいる(もちろん、それ以外、ないし両方という人もいるが)。

 米国でベビーブーマーが購入しているのは、後者が中心と思われ、実際、ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)は、「国家のややこしい問題に対するヘッジとなる」と、オブラートに包みながらヘッジの必要性を説いている。

 日本では、政治に対する不信は根強いが、政府に対する信認が強いせいか、そうした考えは主流ではないが、米国の場合、元はといえば国家を捨てて新天地を求めた人がほとんどで、一夜にして財産を失って中南米や旧東欧から逃げてきた人も目にするので、フィンク氏の言葉が響きやすいのかもしれない。

日米ベースマネー比較

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 マクロ環境を見ると、米国のベースマネー、すなわち米ドルの発行残高は緊急対策としてコロナ前2020年1月の3.4兆ドルから2021年12月の6.4兆ドルに約2倍に増えた。その後、QT(量的引き締め)と称して元へ戻そうとしたが、たった2割減らした2023年3月に金融危機が発生、そこから増加に転じている。

 これは結局、一度膨張した政府債務や、そのために発行した政府紙幣を、増税や引き締めで元に戻すのは事実上、不可能に近いことを示唆している。ばらまいたお金は均等に存在するわけではないので、それを回収しようとすると立ちいかない人が出てくるわけで、そうした人を見捨てて正論を通すことは余程の外圧でもない限り難しい。

 折しも、FRB(米連邦準備制度理事会)はQT自体の緩和を検討し始めており、法定通貨のヘッジの動きは続きそうだ。