スウィフトさんが大統領選挙の行方を動かすならいつ?

 今年は大統領選挙年です。「現職大統領が再選を目指す年は株高だった」との経験則(アノマリー)があります。図表3は、1950年以降で現職大統領が再選を目指した年のS&P500の騰落率とその平均値(+12.8%)を算出したものです。

 1950年以降の暦年平均騰落率(+9.3%)を上回り「株価が下落した年」はありませんでした。「再選を目指した現職大統領が景気の改善に注力したから」との説が有力です。実際、バイデン民主党政権による財政出動(インフラ再整備、地球温暖化対策、国内生産奨励策)の効果もあり、米経済は想定を上回る成長率を維持しています。

 一方、共和党の候補者として最有力視されているトランプ前大統領の返り咲きの可能性が高まるにつれ、その不確実性を市場が警戒する可能性があります。「失言が多く健康が不安視されるバイデン大統領」と「暴言が多く複数の刑事裁判を抱えるトランプ前大統領」による2020年以来の「再対決」と「接戦」が予想されています。

<図表3>現職大統領が再選を目指した年は株高だった

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成

 こうした中、注目されているのが「世界の歌姫」と呼ばれるテイラー・スウィフトさん(グラミー賞を12回受賞した米国のシンガーソングライター)の言動です。2月7日から行われた来日公演では海外女性アーティストとしては初めてとなる「東京ドーム4日連続コンサート」でその人気ぶりと存在感を示しました。

 彼女は絶大なインフルエンサー(インスタグラムのフォロワーは約2億8,000万人)でもあり、昨年12月にはタイム誌の恒例となっている2023年の「今年の人」(Person of the Year)に選ばれました。

 実は、スウィフトさんは政治信条が「リベラル」(民主党寄り)であることが知られています。彼女はこれまで、人種の多様性重視やLGBTQ(性的指向やジェンダー)を擁護する姿勢を表明してきました。そして2020年11月の前回大統領選挙前(10月)には「トランプ大統領は白人至上主義者で人種差別の火を焚きつけている」と痛烈に批判。

 同時に「大統領選では誇りを持ってジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏に投票する」と表明しました。結果的にバイデン大統領が誕生しトランプ氏は落選しました。

 ニューズウィーク誌が2024年1月に有権者を対象に実施した世論調査の結果によると、「スウィフトさんが支持すると言った候補者に私も投票する可能性が高い」という人が18%(約5人に1人)に及びました。彼女のファン(スウィフティーズ)には「Z世代」を含む若者層や女性が多く、今年もスウィフトさんの大統領選挙を巡る発信に関心が寄せられています。

 こうした背景があり、大統領復帰を目指すトランプ氏支持者の攻撃対象となっています。スウィフトさんの影響力を警戒し、「政治に関わるな」と警告する共和党保守派は「陰謀論」まで持ち出し、穏健派や民主党が反発する状況となっています。

 トランプ氏自身も11日、スウィフトさんを名指しして「(バイデン大統領を支持する選択肢は)あり得ない」とけん制。「こんなにたくさん金を稼がせてやった男(トランプ氏)に不誠実になれるわけがない」とまで述べました。

 いまだスウィフトさん自身は今年の大統領選挙に向けた支持の有無を表明していません。4年前の大統領選時と比べて影響力を増している彼女が、政治的圧力に屈せず「バイデン政権支持」や「民主党支持」を再表明するか否か。

 そして支持表明する場合はその時期(2020年は10月でした)に注目したいと思います。トランプ氏が共和党の大統領候補者指名争い(3月5日の「スーパー・チューズデー」(予備選集中日)や8月の共和党全国大会)で勝利するにしても、本選挙(11月5日)の行方には「トランプ氏のアキレス腱」とされる無党派層の投票行動が大きな影響を与えるからです。

 スウィフトさんの影響力(スウィフト効果と呼ばれます)は軽視できず市場もその動向を注視していくと考えています。

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