マイナス金利解除時のコミュニケーション、一歩間違えると円安に

 内田副総裁も、海外投資家の前のめりな見方を従前から認識しており、今回の講演でも、なぜマイナス金利解除後の政策金利引き上げがゆっくりでなければならないのかについて、かなり紙幅をとって丁寧に説明しています。

 しかし、今回の内田副総裁の発言に対する為替の反応で明らかなとおり、マイナス金利政策を解除する際に、その後の政策運営について必要以上にハト派寄りの情報発信を行えば、思いのほか円安に振れるリスクがあるということを意識しておく必要があります。

 それに対処するには、追加利上げを認める、あるいは少なくとも追加利上げを否定しないことが重要ですが、あまりタカ派色を出し過ぎると、今度は長期金利が跳ね上がるリスクを高めることになります。

 いずれにせよ、日銀はマイナス金利解除の際に、相当難易度の高いコミュニケーションを強いられることになりそうですが、一つ参考になる提言が国際通貨基金(IMF)から出されました。「4条協議による対日審査」です。

無視できないIMFの対日審査による提言

 4条協議による審査とは、IMF協定の第4条に基づき加盟国の経済や政策などを監視・点検する仕組みです。IMFは年に一度各国に代表団を送り、政府や中央銀行などと協議して政策提言などを行っています。

 先般、今年の対日審査が終了し、そのスタッフペーパーが8日に公表されました(Japan: Staff Concluding Statement of the 2024 Article IV Mission, February 8, 2024)。そこでは、日本の中立金利を1.5%程度と推定した上で、それに向けて3年という期間をかけ、ゆっくりと政策金利を引き上げていくことが提唱されています。

 つまり、(1)デフレから脱却した日本経済を前提とする政策金利水準への引き上げを否定することなく(過度な円安の防止)、(2)利上げは十分な時間をかけてゆっくり進める(長期金利の跳ね上がりの防止)、というバランスのとれた提言となっており、日本銀行がマイナス金利政策を解除する際には、こうした政策運営を示唆するようなコミュニケーションをとってくる可能性も十分あり得るとみています。