住宅ローン金利上昇に備えるポートフォリオ

 住宅ローン金利がすぐに大きく上がることはないとみる理由を説明しました。しかし、これはあくまでも目先の数年の見通しに過ぎません。住宅ローンは長いモノだと30年超、最近だと50年のローンを提供する金融機関も出始めています。変動金利であれば、その間ずっと金利上昇リスクを背負うこととなります。

 将来の変動金利上昇を懸念するお客さまには、金利上昇のタイミングで、リターンが見込める資産を保有することで、リスクをヘッジする(避ける)ポートフォリオを作り、資産を防衛することを推奨しています。ここでは、住宅ローンを抱える方のポートフォリオに組み込みを推奨する資産をご紹介します。

良い金利上昇に対するヘッジ手段:日本株

 まずは国内の景気が好循環し、物価が継続的に上昇する中での利上げ、いわゆる良い金利上昇となった場合を考えてみましょう。やはり一番に推奨したいのは日本株です。

 景気が利上げに耐えうる状況であれば、政策金利の引き上げに先行する形で日本株が上昇するため、変動金利の負担増加分をカバーできるような上昇が見込めるでしょう。日本株は基本的には日経平均株価(225種)やTOPIX(東証株価指数)などの指数ベースのものが推奨されますが、銀行株なども面白いかもしれません。銀行は金利上昇局面では、収益力が増す傾向にあります。

 一方でグロース(成長)株は、金利上昇のヘッジ手段としてはあまりおすすめしません。グロース株は将来の成長期待の強い株式なので、金利が上昇し、資金の借り入れ負担が増える場面には弱い傾向があり、金利上昇のヘッジには向いていません。

 米国株はどうか、という意見もあるかもしれません。確かに米国は日本よりも成長期待も高く、長期的なリターンという意味では、日本株より高い可能性は十分にあります。

 しかし、米国と日本の景気サイクルが必ずしも一致するとは限らないこと、また為替リスクもあることなどを考えると、「ヘッジ」を行うという目的に対しての、最適解とは言い難いでしょう。結果的に米国株の保有で金利上昇をヘッジできる可能性は十分にありますが、目的からするとややリスクが過大となってしまう点にはご注意ください。

悪い金利上昇に対するヘッジ手段:米ドル建て債券

 一方であまり想定したくないシナリオではありますが、悪い金利上昇も少しだけ懸念しておいてもよいかもしれません。日本は対GDP(国内総生産)比での財政赤字が先進国で最も高く、何かのきっかけでこの財政赤字が諸外国から問題視されてもおかしくありません。

 もし財政赤字が懸念され、大幅な円安を招き、それを食い止めるために政策金利の引き上げが余儀なくされた場合を想定するのであれば、やはり他通貨での運用を検討すべきでしょう。

 そこで推奨するのは、米ドル建ての債券です。大幅な円安のヘッジとしては、やはり基軸通貨の米ドルが第一の選択肢となってきます。特に足元は米国も利下げ開始前で、比較的高金利なのも入りすいポイントです。

 当然、円安に行く場面では、この戦略はワークするかもしれませんが、円高になった場合が怖い方も多いかもしれません。そういった方には、長期の債券をおすすめします。なぜなら長期の米ドル建て債券ほどドル/円と逆相関の動きをする傾向があり、円高になる場面では債券価格が上昇しやすいからです。

 なお、物価連動国債はどうかというご意見もよくいただきます。物価連動国債は、物価上昇に合わせて利回りが上がる債券です。確かにこれであれば、素直に変動金利型ローンの金利上昇のリスクをヘッジできそうです。

 しかし、一般的に住宅ローンとして借りる金額は、運用に回せる余裕資金対比で、大きな金額であることが多いと思われます。金利上昇分と同じだけの利回りを物価連動国債で得るためには、住宅ローンで借り入れる金額と同等に近い金額を購入する必要があり、選択肢としてあまり現実的ではないでしょう。

結び

 本稿では、住宅ローン金利の決まり方からはじまり、住宅ローン金利上昇に備えるためにポートフォリオへの組み込みを推奨する商品をご紹介しました。住宅ローン金利がすぐに大きく上昇することはないと思われます。

 しかし将来は常に不確実であり、住宅ローンという大きな負債を抱える方にとって、資産運用は大事なリスクヘッジの手段ともなります。資産運用は必ずしも増やすことが目的ではなく、自身が抱えるリスクのヘッジとしても活用可能です。本稿を参考にご自身がどのようなリスクを抱えているのか。またそれに対してどう対処していけばよいかぜひ考えてみてください。

香月太郎(カツキタロウ) 早大卒。学生時代に統計学や金融工学を専攻。新生証券でデリバティブ商品の組成や債券トレーディング業務に従事。その後、SMBC信託銀行で金融商品チームヘッドを務める。2021年からCGPパートナーズ。富裕層や事業法人向けにポートフォリオ分析やそれに基づく運用提案を提供。日経ラジオ出演。各種金融専門誌への寄稿など行う。福岡県出身。YouTube:「カツキタロウの『腑に落ちる資産運用の話』