1月米雇用統計は想定外の上振れも、5月利下げ観測は依然強い

 米労働省が2日に公表した1月雇用統計は、昨年1月のサプライズを再現する内容ととなりました。

 1月の非農業部門雇用者数(NFP)は市場予想の倍に近い前月比35.3万人増となり、過去2カ月分も計12.6万人上方修正されました。失業率も3.7%と予想よりも良い結果でした。平均時給も前月比(0.6%)、前年比(4.5%)とも予想を上回った結果、外国為替市場でのドル相場は1ドル=146円台後半から148円台半ばに急騰しました。

 (ちなみに昨年1月のNFPは速報値が市場予想の3倍近くの51.7万人、失業率は3.4%で1969年5月以来53年8カ月ぶりの低い水準でした。しかし、NFPはその後51.7→50.4→47.2万人と下方修正されました。1月の雇用統計は、ホリデーシーズン後の季節調整がブレやすいことや最新の人口推計を反映して過去データを遡及(そきゅう)改定する年次改訂もあり、予測が難しいようです)

 ただし、金利もドルも久々の急騰でしたが、ドルは1月19日の高値1ドル=148.80円近辺、米10年債利回りも4.1%台を抜け切りませんでした。プラスアクションだけを見ると、1月30、31日のFOMC(連邦公開市場委員会)前後の水準からのドル安、金利低下を戻しただけの印象です。今週に入ってからそれらの水準を上抜けましたが、今のところ上値の伸びは限定的な動きとなっています。

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が4日(日)(日本時間5日(月)午前9時)に、テレビ番組に出演しました。1月のFOMC後、初のインタビューでしたが、1日に録画されたものとのことで、2日公表の1月米雇用統計は反映されていない内容でした。

 パウエル氏はFOMC後の会見内容とほぼ同じ内容を述べ、3月に利下げに踏み切る可能性は低いとした上で、年3回利下げ見通しはおおむね維持されているとの見方を示しました。そして、見通しの修正可能性について問われると、「予測が劇的に変わるようなことは何も起きていない」と述べました。

 1月の米雇用統計が予測を劇的に変えた出来事かどうか気になるところですが、パウエル氏は1月末のFOMC後の記者会見で、「(利下げには)経済成長と労働市場の力強さが続いていることが望ましい」として、「労働市場が落ち込むのではなく、インフレ減速が続く形での(利下げ)を望む」と述べています。つまり、インフレ動向次第で利下げのタイミングを探る姿勢は続くことが推測されます。今後、インフレ動向はますます注目材料となります。

 先行きの政策金利の織り込み度を示す米CMEのフェドウオッチ(Fed Watch)によると、米雇用統計発表後に3月のFOMC会合での利下げ観測は17%程度に急低下しましたが、5月の利下げは53%程度と少し低下しただけで50%超は維持しています。

 ドル高の伸びに勢いがないのは、この市場の根強い利下げ期待が影響しているのかもしれません。ただ、市場ではこれまでの年内6回の利下げ予想が優勢でしたが、5回に減ったことは注目です。市場がFRBの見方(年3回利下げ)に一歩歩み寄る予想に変わりました。

 FOMCの金利見通しは、年内の利下げ回数は3回。そしてパウエル氏は1月の記者会見で、3月の利下げの可能性は高くないと述べています。そうすると、3月以降のFOMC(5、6、7、9、11、12月)の6回で3回利下げが行われることになります。

 FRBが物価高の指標として重視するPCEコア・デフレーターは、1月に発表された12月分が前年同月比2.9%増にとどまりました。この伸びの鈍化を続け、FRBの物価目標である2%まで下落するのは5月か6月との見方があります。その場合、利下げ時期はこの指標を見極めてから5月か6月に利下げ、そして11月の米大統領選挙までに1回(7月か9月)、選挙後に1回(11月か12月)というシナリオが想定されます。

 ただ、好調な景気が悪くなれば、連続利下げというシナリオにも留意する必要があります。米国経済は2023年7‐9月期が4.9%、10‐12月期は3.3%と好調を維持しています。この半年はFRBが1.8%程度とみる潜在成長率を大きく上回り、そして労働市場は堅調でインフレは鈍化傾向にあります。高成長の中でのインフレ鈍化というFRBが望む理想的な組み合わせとなっています。