日本の景気が金利引き上げにどの程度耐えられるか

 次に、日銀の利上げ幅を0.1%という、米国などで通常行われる刻み幅0.25%より相当小幅にした背景について整理します。ポイントは2つ。まず、「物価安定の目標」である消費者物価上昇率2%が、本当の意味で持続的・安定的に実現するか確認できるまで、なお相当の時間がかかるという点があります。

 1月26日に東京都区部の1月消費者物価(中旬速報値)が発表され、生鮮食品を除く総合指数が前年比1.6%と、2022年5月以来1年8カ月ぶりに2%を割り込みました(図表1)。これを受けて、2月27日に発表される1月の全国消費者物価も、生鮮食品を除く総合が前年比2.0%、場合によっては1.9%になると予想されます。

 2月は政府の物価対策(「電気・ガス価格激変緩和対策事業」など)の影響が剥落するため上振れるとみていますが、その後中長期的に2%程度に収束するかどうか、誰も確たることは言えません。

<図表1 東京都区部の消費者物価指数>

出所:総務省、楽天証券経済研究所作成

 2つ目は、日本経済が利上げにどの程度耐えられるのか、不確実な点があげられます。こちらの方が本質的には重要な点ですが、現在のマインド指標の動向を見ると、決して急速な、というか普通の利上げに耐え得るほどの頑健性を、個人消費や住宅投資が兼ね備えているようには見えません。

 例えば、内閣府が発表した景気ウォッチャー調査と消費動向調査から、面白い事実が分かります。図表2の左側は、景気ウォッチャー調査のうち「家計動向関連」の現状判断DIと名目賃金の前年比を比較したもの。

 右図は、消費動向調査の「消費者態度指数」と実質賃金の前年比を比較したものになります。これらから、景気ウォッチャー調査は名目賃金と、消費者態度指数は実質賃金と、それぞれリンクしているという明確な違いが見て取れます。

<図表2 マインド指標と賃金動向>

出所:厚生労働省、内閣府、楽天証券経済研究所作成

 景気ウォッチャー調査は、小売店の経営者やスーパーの店長など企業サイドから聴取しており、名目賃金の上昇が売上回復につながって現状判断DIが改善傾向を続けている一方で、家計から聴取している消費動向調査では、インフレで実質賃金が目減りしていることを反映して、消費者態度指数が低迷を続けていると考えられます。消費マインドは決して強いわけではありません。

 最後に、政治に関連して一言。上のカレンダーには6月に「デフレ脱却宣言」と「通常国会会期末解散」と記述し、「?」を付けています。

 5月中旬に発表される2024年1-3月期の実質GDPが高成長を示し、デフレ脱却の条件であるGDPギャップがプラスに転じれば、岸田文雄首相はデフレ脱却宣言をした上で、6月に「デフレ脱却解散」をする。こんなシナリオも描けなくはありません。

 ただし、筆者の計算では、内閣府の推計するGDPギャップが2024年1-3月期にプラスになるには、実質GDPが少なくとも2023年10-12月期から2四半期続けて前期比年率2.0%成長する必要があり、そのときの2023年度成長率は前年比1.7%になります。

 日銀の1月展望レポートの見通しが1.8%、市場見通し(ESPフォーキャスト)が1.5%ですから、日銀の見通しが実現すれば1-3月期のGDPギャップはプラスになりますが、果たしてそうなるかどうか。

 いずれにせよ、GDPギャップもその程度のレベルですし、追加利上げには相当慎重に(やるならベビーステップで)臨むべきであることは、間違いないように思われます。