セルフESG投資のすすめ

 投資をしたことがない方の中には、投資は拝金主義の印象があったり、ギャンブルみたいで危ないと思ったりする方もいますが、瀧澤氏はESG投資の要素を取り入れていくことで、社会的課題の解決を期待しながら、相応の投資リターンも期待することが可能だと話します。

 ESG投資は環境問題や社会的な課題などに関し、投資を通じて解決を図ろうとする投資手法です。ESGの考え方は国際連合が2006年に機関投資家向けに責任投資原則を提唱し、国連主導で広まりましたが、目標が大掛かり過ぎて日本人の感覚では身近に感じられないものが多いのが現状です。

 瀧澤氏はまずは自分の興味や関心のある社会課題を整理し、その問題に取り組んで解決をしてくれそうな企業を見つけ、自身のポートフォリオに組み入れていく「セルフESG投資」を提唱しています。

 ESGを考慮したプロが運用するESGファンドもありますが、銘柄調査のために手数料が高く設定されています。また、投資対象が「ブルーチップ」と呼ばれる優良大企業に偏ってしまいがちで、日経平均株価(225種)と連動した従来型ファンドと大差がないといったこともあります。

 社会課題の解決に結びつくイノベーション(発明)は新興企業から多く生まれますが、そうした企業は時価総額が小さいためファンドの投資対象から外れてしまう問題点もあります。

 瀧澤氏は日本初のESGファンドの銘柄調査やESG投資を通じた資産運用会社の立ち上げなど、ESG投資に深く関わってきましたが、「ESGは投資信託のスキームにフィットしていない。未解決の課題を新しい技術で解決していこうというのが本来のESG投資で、自分が解決してほしいと思う身近な社会的課題に取り組む企業に直接投資をした方が本来の目的にかなっている」と説明します。

社会課題に取り組む企業は業績に反映される可能性がある

 社会的課題の解決には強いニーズがあり、ビジネス機会が生まれる素地があります。そうしたチャンスを生かす企業の業績は拡大していく可能性があります。瀧澤氏は、著書でも紹介する富士製薬工業(4554)について「更年期障害の治療薬や避妊薬など女性医療に特化した会社で、ほかに競合も少ない。女性の社会進出や男女平等を裏方として支え得る会社だ」と指摘します。

 富士製薬工業の2023年9月中間決算は不妊治療薬の販売増などで前年同期と比べ大幅増益となりました。女性医療領域の売上高の伸長が見込まれることから、株価は中間決算の発表後、急上昇しました。

 ただ富士製薬工業は時価総額があまり大きくないので、一般的な大型のESGファンドの投資対象に通常は組み込まれることはほとんどないといいます。

 瀧澤氏は「自ら解決したいと考える社会課題を見つけて、それに取り組む企業に投資をしていけば、社会課題の解決が近づき、それによって自分達の社会環境・生活環境がより良くなり、ひいては自分の人生が豊かに幸せに変化していく礎になるはずだ」と強調します。(聞き手はトウシル編集チーム 田嶋啓人)

瀧澤信(たきざわ・しん)氏 1972年生まれ。プライベート・バンカー/ESGアナリスト。明治生命保険やグッドバンカー、野村証券を経て、2006年にサステイナブル・インベスターを設立、2016年から複眼経済塾・取締役を兼務。バングラディッシュのグラミン銀行を創設しノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の下で研修を受け、ESGの道を志す。