今回のサマリー

●2024年は米利下げ4回以上、長期金利3%接近を前提にドル/円は130円と予想
●2024年の米景気・インフレ、そして金利の見通しにはまだ紆余曲折があり得る
●紆余曲折の過程では、金利がどうなるかをまず考えて、為替予想を調整していくアプローチが適切
●ドル/円を読む試行錯誤は、世界情勢、相場を動かすロジックをつかむ格好の教材

2024年末130円予想

 米金利の低下観測が強まり、ドル/円は一時140円台まで下落しました。この延長線で、米政策金利が2024年中に4回以上利下げされ、米国債10年金利が3.75%なら130円台後半、3.25%なら130円台前半を軟化し、同年末に130円辺りをザックリ目算しています(図1)

 このレポートでは、130円予想のトリセツを、実現度、その道筋、実際にそうなった時に見えることを解説します。本来は、投資家として、想定されることは事前に踏まえて臨むのが適切です。しかし、起こった後でないと、相場についての誤認識は正されないケースがあまりに多いのです。

 そしてまた、130円という水準を明確にした予想は一人歩きして、「当たった」「外れた」と後々までこだわる人がいます。予想は前提条件があって導かれるものです。その前提条件に変化があれば、予想はたわいなく変転します。少なくともDIY(Do It Yourself:自分で考える)投資家でありたいと思うなら、予想値という結論ではなく、予想値を導く前提条件、前提条件を導くロジックから、相場を捉える視座を身につけてほしいと、繰り返し解説している次第です。

図1:米主要金利(+FF金利の市場予想)とドル/円

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

130円の実現度

 ドル/円が下落に転じた背景を確認します。まず、11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でハト派的な配慮が見られたこと、その後公表された経済・インフレ指標が軟化したことで、米国債金利が低下し、ドル/円は150円にとどまれず、陥落しました。相場の方向転換の初期には、それまでの上昇トレンドに沿って作られた投機的ポジションの巻き戻しが殺到し、相場雪崩の様相になりがちです。米長期金利が低下するたびに、ドル/円は滑落していきました。

 ドル/円相場を読む基本の指標は米金利です。今回のドル/円相場のサイクルは、特に長期金利への反応が明快です。高金利通貨を買う時、最も金利が低いまま上がりにくい円を売る「円キャリー」取引は、世界中の投機筋が手がけています。彼らは米金利の動向を最も敏感にシグナルする10年国債金利を注視して、円キャリーのポジションを買い増したり、売り逃げたり、対応するのです。

 12月FOMCで公表されたドットチャート、すなわちこの金融政策会合の参加メンバーによる政策金利の中心見通しでは、2024年中の利下げは3回とされています。これに対して市場は6回の利下げを織り込み、長期金利は3.9%前後まで低下しました。筆者は、市場のこの利下げ見通しはやや勇み足かもしれないとして、4回ないし5回の利下げを前提に、2024年末のドル/円が130円に至る状況、道筋を想定しています。

 市場の金利低下観測が勇み足かもしれないとみるのは、第1に、11月以降の経済指標の陰り方がやや誇張的であり、その揺り返しが向こう数カ月中にあり得るとの警戒を残しているからです。米GDP(国内総生産)が7-9月期に年率5%超も急伸したため、10-12月期にはその反動だけでも指標の鈍化があり得るとみました。最近のGDP Now(図2)では10-12月期の推計は2.6%と、巡航速度1.8%を上回り、7-9月急伸後の数字としても高すぎます。

 今回の景気サイクルは、コロナ禍後の特殊事情によるブレが大きく、私を含む専門家が2023年には景気減速予想を丸外ししました。そして、今でも確信度の高い予想を出せなくなっています。このため、景気・インフレ動向に沿った米金利の低下見通しも、一気下降から、紆余(うよ)曲折、高止まりまで、シナリオが多岐に分かれています。

 従って、ドル/円予想も2024年末130円の数字を真に受けて、一人歩きさせず、1年通じて金利動向を都度チェックしながら、時間の経過と共に予想値を調整していく「アンカリング接近法」を推奨します。アンカリングとはアンカー(いかり)を下ろすことで、ざっくり130円に投資スタンスを係留したら、時間に沿って風向きや波浪、潮の流れをチェックして、係留ポイントを切り替えていくのです。

図2:米GDP Now

出所:Bloomberg