中国当局と「手打ち」、ジャック・マー氏が描くシナリオは?
3年前、アントフィナンシャルのIPO(新規株式公開)が延期され、公の場にしばらく姿を現さなかったジャック・マー氏。その後日本にも一定期間滞在するなど、雲隠れしているように見える時期もありました。「習近平国家主席を敵に回したのではないか」「馬雲はもう表舞台には出てこれない」「ジャック・マーは永遠に帰国できない」といった臆測が市場や世論をにぎわせました。
ただ結果は、本連載でも扱ってきたように、今年3月、マー氏は帰国し、公の場にも姿を現しました。今回も、自分が99.9%の株を持ち、名称に自らの姓をささげる形で新会社を立ち上げています。
仮に、3期目入りした習近平政権がマー氏を敵視し、二度と公の場で活動するなといった命令を出しているとしたら、このような事態にはなりません。以前も指摘したように、中国当局とマー氏の間では一種の「手打ち」ができているという認識は現在に至っても何ら変わっていません。
マー氏は、創業したアリババグループでの存在感と影響力を限定的なものにしつつ、同グループが関わる分野で市場や世論に対する発言を極力控えるようにしています。ただ、マー氏が香港大や東大に研究分野(教育、食品、農業、サステナビリティなど)として申告したテーマに関しては、あまり目立たないように活動する分には当局も問題視する気はない。むしろ、中国が根本的、中長期的に発展するために、実際の行動を通じて貢献してほしいというのが、当局がマー氏に対して課しているミッションだと言えるでしょう。マー氏もその点を十二分に理解した上で、今回の新会社の設立に至った、というのが私の理解です。
そして、ここからは私の推測ですが、習近平氏とマー氏は、来年11月に行われる米国の大統領選挙を通じて、共和党候補として呼び声高いドナルド・トランプ氏が大統領に再選するシナリオを想定していると思います。トランプ氏が再び大統領になれば、中国の政府や企業が、米国で雇用を創出する、米国企業が中国でモノを売るといった点で貢献してくれることを大いに期待し、圧力をかけてくるでしょう。
その時、マー氏は習近平氏の指示を受けながら(実際に指示を出すのは習氏ではないが)、食品、農産物という分野でトランプ氏に貸しを作ることで、中国共産党というお上に恩を売り、結果として自ら、そして自らが作ったアリババグループを守ろうとしているのではないでしょうか。
攻めながら守る。守りながら攻める。
ジャック・マー氏は引き続きこのスタイルで闘っていくものと思われます。