スーパー・マイクロ・コンピューター

1.2024年6月期1Qは、14.5%増収、21.4%営業減益

 スーパー・マイクロ・コンピューター(以下スーパーマイクロ)の2024年6月期1Q(2023年7-9月期、以下今1Q)は、売上高21.20億ドル(前年比14.5%増)、営業利益1.73億ドル(同21.4%減)となりました。前4Q比では3.0%減収、23.8%営業減益となりました。

 AIサーバーではエヌビディアのAI用GPU「H100」搭載サーバーの強い人気が続いていますが、「H100」の調達増加が難航しており、全社売上高は前4Q比3.0%減となりました。このうちAIサーバー売上高は前4Q比横ばいの約11億ドルだったと思われます(会社側は今1QのAIサーバー売上高比率を50%以上としています)。

 また、人件費、研究開発費の増加、AIサーバーでシェアを維持し、上昇させるために戦略的な値引きを行っていると思われることから、売上総利益率は前1Q18.8%、前4Q17.0%から今1Q16.7%へ低下、営業利益率も同11.9%、10.4%、8.2%へ低下しました。

表6 スーパー・マイクロ・コンピューターの業績

株価(NASDAQ) 283.67米ドル(2023年11月16日)
時価総額 15,061百万ドル(2023年11月16日)
発行済株数 57.185百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 53.093百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。

表7 スーパー・マイクロ・コンピューター:プロダクトタイプ別売上高(四半期ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ2 スーパー・マイクロ・コンピューター:市場別売上高

単位:100万ドル、出所:2021年6月期2~4Qは会社開示の売上構成比より楽天証券計算、2022年6月期1Q~2024年6月期1Qは決算電話会議。

グラフ3 スーパー・マイクロ・コンピューター:地域別売上高

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

2.今2Q会社側業績ガイダンスと「H100」の調達を巡る状況

1)今2Qは増収増益へ

 会社側の今2Q(2023年10-12月期)業績ガイダンスは、売上高27億~29億ドル、EPS3.75~4.24ドル、税率15.7%、完全希薄化発行済み株式数5,760万株です。ここからレンジ平均値を計算すると、今2Q会社予想業績は、売上高28億ドル(前年比55.3%増)、当期純利益2.30億ドル(同30.7%増)となる見込みです(単純に営業外収支をゼロとすると、営業利益予想は2.70億ドル(同25.6%増)となります)。

「H100」中心にAI用GPUの調達増加が予想されるため、前年比、今1Q比とも増収増益が予想されます。増収効果によって、営業利益率は今1Qよりも上昇すると予想されます。

 また、2024年6月期通期の会社側売上高ガイダンスは、100億~110億ドル(レンジ平均値105億ドル(前年比47.4%増))となり、前回予想の95億~105億ドルから上方修正されました。「H100」の調達が今後四半期ごとに右肩上がりで増加するかどうかは、毎四半期の業績と会社側ガイダンスを確認する必要があります。ただし、東京エレクトロン等の半導体製造装置メーカーの業績コメントを聞くと、「H100」は増産中と思われるため、これまでのような調達難が起こる可能性は低いと考えられます。

 また、後述のエヌビディアのGPU、CPU一体型の「GH200」搭載サーバーは量産準備が整っており、「GH200」の供給を待つばかりとなっています。

 なお、エヌビディア以外のAI用GPU、AI半導体への対応については、2023年10-12月期にAMDが発売する予定の「MI300」シリーズ、インテルのディープラーニング用AIプロセッサー「Habana Gaudi 2」搭載サーバーも発売準備中です。

2)エヌビディアは2024年、2025年に新型AI用GPUを発売する模様

 エヌビディアが公表したAI半導体のロードマップを見ると(エヌビディアホームページIR欄掲載の「NVIDIA Investor Presentation October 2023」p.26)、2024年に「H100」の拡張版である「H200」とエヌビディアのデータセンター用CPU「Grace」と「H100」を組み合わせた「GH200」を出荷開始する予定です。2024年には「H100」の次世代機「B100」も出荷開始が予定されています。2025年にはさらに性能を向上させた「X100」の出荷開始がある模様です。このように、従来は2年に1回だった新製品の発表、発売を年1回に短縮する模様です。

 加えて、「H100」の下位モデルである「LS40S」がすでに発売されています。一世代前の「A100」と「H100」の中間の性能であり、より緻密に需要を獲得する方針と思われます。

 エヌビディアが投資家向け資料で公表したこのロードマップに記載されている予定が今後変更される(延期される)可能性もあると思われますが、これらのAI用GPUを搭載したAIサーバーの性能に幅ができることによって、AIサーバー市場がこれまでの延長線上よりも大きな市場に成長する可能性があると思われます。

3)2023年4-6月期のAIサーバー売上高世界トップは推定でスーパーマイクロ、2023年7-9月期は?

 これはあくまでも大手サーバーメーカーの四半期決算から推定したものですが、2023年4-6月期の世界のAIサーバー売上高でスーパーマイクロは首位だったと思われます。楽天証券の推定では、2023年4-6月期のAIサーバー売上高は、1位スーパーマイクロ約11億ドル、2位デル・テクノロジーズ7億~8億ドル、3位ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(金額不明)でした。

 2023年7-9月期のスーパーマイクロのAIサーバー売上高は推定11億ドルと前四半期比横ばいだったと思われます。首位であったかどうかは、2023年11月30日発表予定のデル・テクノロジーズの2024年1月期3Q(2023年8-10月期)決算を確認する必要があります。デルのAIサーバー売上高がスーパーマイクロ同様前四半期比横ばいなら、7-9月期もスーパーマイクロが首位ということになります。

 AIサーバートップのポジションが今後も続けば、AIサーバーの販売にはソリューション販売(AIサーバー単体だけでなく、システムに組み上げるための各種ハードウェア、ソフトウェアを販売)が必要になるため、従来よりも手間はかかります。しかし、クラウドサービス会社を含む多くのITユーザーは、ITとAIの最重要機材であるAIサーバーのトップ企業とは密接なつながりを持ちたいと考えるものなので、スーパーマイクロにとってのビジネスチャンスはより大きくなると思われます。

3.楽天証券の2024年6月期、2025年6月期業績予想を修正する

 今1Q業績、今2Qと今期の会社側業績ガイダンスと前述のような「H100」を巡る状況を考慮し、2024年6月期、2025年6月期の楽天証券業績予想を修正します。2024年6月期は売上高110億ドル(前年比54.4%増)、営業利益11億ドル(同44.5%増)、2025年6月期は売上高160億ドル(同45.5%増)、営業利益18億ドル(同63.6%増)と予想します。前回予想は2024年6月期売上高105億ドル、営業利益13億ドル、2025年6月期売上高150億ドル、営業利益21億ドルでした。

 2024年6月期、2025年6月期ともに、楽天証券の売上高予想を上方修正しました。ただし、人件費、研究開発費の増加、市場シェア獲得のために一定率の値引きを今後も続けると思われることから、営業利益と営業利益率の予想を引き下げました。もっとも、大きな売上高成長率とそれに伴った利益成長は実現できると予想されます。

表8 スーパー・マイクロ・コンピューター:プロダクトタイプ別売上高(年度ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券。

グラフ4 スーパー・マイクロ・コンピューターの四半期業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の400ドルを維持する

 スーパー・マイクロ・コンピューターの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の400ドルを維持します。

 楽天証券ではスーパーマイクロの2024年6月期、2025年6月期の売上高を上方修正した一方で、営業利益、当期純利益とEPS予想を下方修正しました。しかし、今回のAIブームが続く限りスーパーマイクロは成長企業であり、業績変化率の大きさに対してPERが割安になっていると考えています(2024年6月期の楽天証券予想営業増益率44.5%増に対して予想PER17.4倍、2025年6月期は同63.6%増、10.7倍)。

 一方で、前述のように、2023年4-6月期は世界のAIサーバー売上高でスーパーマイクロは首位だったと思われますが(2位はデル・テクノロジーズ)、2023年7-9月期も首位であったかどうかは、2023年11月30日発表予定のデル・テクノロジーズの2024年1月期3Q(2023年8-10月期)決算を確認する必要があります。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)