毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)

東京エレクトロン

1.2024年3月期2Qは、39.7%減収、58.7%営業減益

 東京エレクトロンの2024年3月期2Q(2023年7-9月期、以下今2Q)は、4,278.26億円(前年比39.7%減)、営業利益961.45億円(同58.7%減)となりました。業績好調だった前2Q比では大幅減収減益となりましたが、今1Q比では9.2%増収、16.6%営業増益となりました。今1Qが業績の大底であったと思われます。

表1 東京エレクトロンの業績

株価 24,090円(2023/11/16)
発行済み株数 462,824千株
時価総額 11,149,430百万円(2023/11/16)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

2.アプリケーション別動向、地域別動向

 半導体製造装置の新規装置売上高のアプリケーション別売上構成比を見ると、ロジックファウンドリ+ロジック&その他向けは今1Q70%から今2Q67%と構成比はやや低下しましたが、売上高は同2,010億円から2,113億円へ増加しました(売上高は会社開示の新規装置売上高と構成比から楽天証券計算。ロジックファウンドリはTSMCのような半導体受託生産事業者。ロジック&その他はインテルのような自社生産メーカー(IDM))。最先端ロジック向けは設備投資の進捗が遅れ気味ですが、中国向けは高水準の出荷が続きました。

 また、DRAM向けは同16%から28%へ大幅に上昇し、売上高は同459億円から883億円へ急増しました。AI用GPUに付属するHBM(DRAMの最新規格DDR5をベースにした大容量広帯域高速の特殊メモリ)向けボンディング装置の増産が進みました。先端DRAM(DDR5)も増産投資が再開されたと思われます。

 一方で、不揮発性メモリ向け(主にNAND型フラッシュメモリ向け)は同14%から5%、売上高は同402億円から158億円に急減しました。

 機種別には、コータ/デベロッパ、HMB用ボンディング装置、エッチング装置などが好調でした。

 地域別売上高を見ると、最も売上高が大きい中国向けは今1Q1,539億円から今2Q1,829億円へ順調に増加しました。成熟ロジック半導体向け、DRAM向け設備投資が増えました。中国向けは当面は堅調な売上高が続くと会社側は見ています。日本向け、北米向け、欧州向けも増加しました。一方で、韓国向け、台湾向けは減少しました。先端ロジック/ファウンドリ向けの動きが鈍いことが響きましたが、来年には回復すると思われます。

表2 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。

表3 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:端数処理の関係で合計が合わない場合がある。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:2023年4-6月期よりFPD売上高を含む。

3.会社側は2024年3月期業績予想を上方修正した

1)東京エレクトロンのWFE市場の見方

 会社側ではWFE(ウェハプロセス製造装置:半導体製造装置の中で前工程装置)市場の2023年暦年予想を前回予想の700億~750億ドルから850億~900億ドルへ上方修正しました。2022年実績1,006億ドルから減少率が縮小する見込みです。先端ロジック/ファウンドリ向けでは投資延期がありますが(景気に対する先行き不透明感によると思われます)、中国向け成熟ロジック(20ナノ台から昔の微細化世代)用とDRAM向け製造装置が好調です。また、2022年の半導体不足、部材不足によって出荷が遅れた製造装置があり(特に露光装置)、これらが2023年に出荷されていることも寄与しています。

 また、会社側は2024年、2025年のWFE市場の合計を2,000億ドルと予想しています。その牽引役はAIサーバーであり、AIサーバー市場は2023年から2027年にかけて年率31%増が予想されます。AIサーバー市場の拡大により、最先端のAI用GPU、CPU、先端DRAM、HBM等に半導体製造装置の事業機会が拡大すると会社側は見ています。また、パソコン、スマートフォンへのAIの搭載、コロナ期に購入した民生品の買い替え需要、企業のIT投資増加も半導体需要の増加要因と会社側は見ています。

 会社側は2025年のWFE市場規模は過去最高になると予想していますが、2024年については2023年比微増と予想しています。ただし、2024年は中国向けでは成熟ロジック向けとDRAM向けが順調と予想されます。中国向け以外ではAI半導体関連(AI用GPU、HBM等)、先端ロジック向け、先端DRAM向けの増加が予想されます。NAND向けだけは2023年に大幅に減少する見通しで回復は2025年と予想されます。

 また、2023年はWFE市場では露光装置が増加しましたが、2024年は露光装置以外の前工程装置が増加すると予想されます。

 これらを総合的に考えると、2024年のWFE市場も順調に成長すると予想されます。

2)会社側は2024年3月期業績予想を上方修正した

 WFE市場の見通しと今上期(今1-2Q累計)の実績を受け、会社側は2024年3月期業績予想を前回予想の売上高1兆7,000億円(前年比23.0%減)、営業利益3,930億円(同36.4%減)から、売上高1兆7,300億円(同21.7%減)、営業利益4,010億円(同35.1%減)に上方修正しました。今下期の売上高会社予想は前回予想とほぼ同じですが、営業利益は研究開発費とそれ以外の販管費を上乗せしたため下方修正となりました。ただし、通期会社予想は前回予想から上方修正されました。

 楽天証券の2024年3月期予想は、前回予想の売上高1兆7,900億円(前年比19.0%減)、営業利益4,300億円(同30.4%減)を維持します。今4Q(2024年1-3月期)以降のHBM、DRAM、AI用GPU、先端ロジック(3ナノ半導体、先端サーバー用、パソコン用CPU)への投資が強めに増加すると予想しました。

 また、来期2025年3月期は、前回予想の売上高2兆2,400億円(前年比25.1%増)、営業利益6,200億円(同44.2%増)を維持します。2024年暦年はAI用GPUとHBMの増産投資、サーバー用、パソコン用先端CPUと3ナノ半導体の増産投資、2ナノの初期投資等が予想されます。

 地域別売上高では今2Qの42.8%が中国向けであり、中国向けの持続可能性が注目されますが、会社側は来期も売上高の約40%が中国向けになると予想しています。中国全体のWFE市場では、今期は露光装置、エッチング装置、CVD、洗浄・乾燥関連の装置が増加しています。この中で東京エレクトロンでは今上期に20~30社新規顧客を獲得しました。東京エレクトロンがMAGIC市場と呼んでいる分野(メタバース、自動運転、新エネルギー、IoT&インフォメーション、通信)で新規顧客ができました。見込み客も数10社あり、中国向けは順調に拡大すると予想されます。

表4 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(年度ベース)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表5 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(半期ベース会社予想)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

グラフ1 東京エレクトロンの売上高と営業利益

単位:100万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を、前回の2万6,000円から3万3,000円に引き上げる

 東京エレクトロンの今後6~12カ月の目標株価を、前回の2万6,000円から3万3,000円に引き上げます。

 楽天証券の2025年3月期予想EPS(1株当たり利益)1,017.7円に想定PER(株価収益率)30~35倍を当てはめました。今後の成長性と、少なくとも当面はこれまでのようにアメリカの金利上昇を気にしなくともよいと思われることを考慮しました。問題は取引の大半が円建て取引であり、この円安ドル高の中で儲けそこなっていることですが、重要装置であるエッチング装置の一部工程、HBM用ボンディング装置で過半数のシェアを獲得していることを評価しました。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

スーパー・マイクロ・コンピューター

1.2024年6月期1Qは、14.5%増収、21.4%営業減益

 スーパー・マイクロ・コンピューター(以下スーパーマイクロ)の2024年6月期1Q(2023年7-9月期、以下今1Q)は、売上高21.20億ドル(前年比14.5%増)、営業利益1.73億ドル(同21.4%減)となりました。前4Q比では3.0%減収、23.8%営業減益となりました。

 AIサーバーではエヌビディアのAI用GPU「H100」搭載サーバーの強い人気が続いていますが、「H100」の調達増加が難航しており、全社売上高は前4Q比3.0%減となりました。このうちAIサーバー売上高は前4Q比横ばいの約11億ドルだったと思われます(会社側は今1QのAIサーバー売上高比率を50%以上としています)。

 また、人件費、研究開発費の増加、AIサーバーでシェアを維持し、上昇させるために戦略的な値引きを行っていると思われることから、売上総利益率は前1Q18.8%、前4Q17.0%から今1Q16.7%へ低下、営業利益率も同11.9%、10.4%、8.2%へ低下しました。

表6 スーパー・マイクロ・コンピューターの業績

株価(NASDAQ) 283.67米ドル(2023年11月16日)
時価総額 15,061百万ドル(2023年11月16日)
発行済株数 57.185百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 53.093百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。

表7 スーパー・マイクロ・コンピューター:プロダクトタイプ別売上高(四半期ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ2 スーパー・マイクロ・コンピューター:市場別売上高

単位:100万ドル、出所:2021年6月期2~4Qは会社開示の売上構成比より楽天証券計算、2022年6月期1Q~2024年6月期1Qは決算電話会議。

グラフ3 スーパー・マイクロ・コンピューター:地域別売上高

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

2.今2Q会社側業績ガイダンスと「H100」の調達を巡る状況

1)今2Qは増収増益へ

 会社側の今2Q(2023年10-12月期)業績ガイダンスは、売上高27億~29億ドル、EPS3.75~4.24ドル、税率15.7%、完全希薄化発行済み株式数5,760万株です。ここからレンジ平均値を計算すると、今2Q会社予想業績は、売上高28億ドル(前年比55.3%増)、当期純利益2.30億ドル(同30.7%増)となる見込みです(単純に営業外収支をゼロとすると、営業利益予想は2.70億ドル(同25.6%増)となります)。

「H100」中心にAI用GPUの調達増加が予想されるため、前年比、今1Q比とも増収増益が予想されます。増収効果によって、営業利益率は今1Qよりも上昇すると予想されます。

 また、2024年6月期通期の会社側売上高ガイダンスは、100億~110億ドル(レンジ平均値105億ドル(前年比47.4%増))となり、前回予想の95億~105億ドルから上方修正されました。「H100」の調達が今後四半期ごとに右肩上がりで増加するかどうかは、毎四半期の業績と会社側ガイダンスを確認する必要があります。ただし、東京エレクトロン等の半導体製造装置メーカーの業績コメントを聞くと、「H100」は増産中と思われるため、これまでのような調達難が起こる可能性は低いと考えられます。

 また、後述のエヌビディアのGPU、CPU一体型の「GH200」搭載サーバーは量産準備が整っており、「GH200」の供給を待つばかりとなっています。

 なお、エヌビディア以外のAI用GPU、AI半導体への対応については、2023年10-12月期にAMDが発売する予定の「MI300」シリーズ、インテルのディープラーニング用AIプロセッサー「Habana Gaudi 2」搭載サーバーも発売準備中です。

2)エヌビディアは2024年、2025年に新型AI用GPUを発売する模様

 エヌビディアが公表したAI半導体のロードマップを見ると(エヌビディアホームページIR欄掲載の「NVIDIA Investor Presentation October 2023」p.26)、2024年に「H100」の拡張版である「H200」とエヌビディアのデータセンター用CPU「Grace」と「H100」を組み合わせた「GH200」を出荷開始する予定です。2024年には「H100」の次世代機「B100」も出荷開始が予定されています。2025年にはさらに性能を向上させた「X100」の出荷開始がある模様です。このように、従来は2年に1回だった新製品の発表、発売を年1回に短縮する模様です。

 加えて、「H100」の下位モデルである「LS40S」がすでに発売されています。一世代前の「A100」と「H100」の中間の性能であり、より緻密に需要を獲得する方針と思われます。

 エヌビディアが投資家向け資料で公表したこのロードマップに記載されている予定が今後変更される(延期される)可能性もあると思われますが、これらのAI用GPUを搭載したAIサーバーの性能に幅ができることによって、AIサーバー市場がこれまでの延長線上よりも大きな市場に成長する可能性があると思われます。

3)2023年4-6月期のAIサーバー売上高世界トップは推定でスーパーマイクロ、2023年7-9月期は?

 これはあくまでも大手サーバーメーカーの四半期決算から推定したものですが、2023年4-6月期の世界のAIサーバー売上高でスーパーマイクロは首位だったと思われます。楽天証券の推定では、2023年4-6月期のAIサーバー売上高は、1位スーパーマイクロ約11億ドル、2位デル・テクノロジーズ7億~8億ドル、3位ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(金額不明)でした。

 2023年7-9月期のスーパーマイクロのAIサーバー売上高は推定11億ドルと前四半期比横ばいだったと思われます。首位であったかどうかは、2023年11月30日発表予定のデル・テクノロジーズの2024年1月期3Q(2023年8-10月期)決算を確認する必要があります。デルのAIサーバー売上高がスーパーマイクロ同様前四半期比横ばいなら、7-9月期もスーパーマイクロが首位ということになります。

 AIサーバートップのポジションが今後も続けば、AIサーバーの販売にはソリューション販売(AIサーバー単体だけでなく、システムに組み上げるための各種ハードウェア、ソフトウェアを販売)が必要になるため、従来よりも手間はかかります。しかし、クラウドサービス会社を含む多くのITユーザーは、ITとAIの最重要機材であるAIサーバーのトップ企業とは密接なつながりを持ちたいと考えるものなので、スーパーマイクロにとってのビジネスチャンスはより大きくなると思われます。

3.楽天証券の2024年6月期、2025年6月期業績予想を修正する

 今1Q業績、今2Qと今期の会社側業績ガイダンスと前述のような「H100」を巡る状況を考慮し、2024年6月期、2025年6月期の楽天証券業績予想を修正します。2024年6月期は売上高110億ドル(前年比54.4%増)、営業利益11億ドル(同44.5%増)、2025年6月期は売上高160億ドル(同45.5%増)、営業利益18億ドル(同63.6%増)と予想します。前回予想は2024年6月期売上高105億ドル、営業利益13億ドル、2025年6月期売上高150億ドル、営業利益21億ドルでした。

 2024年6月期、2025年6月期ともに、楽天証券の売上高予想を上方修正しました。ただし、人件費、研究開発費の増加、市場シェア獲得のために一定率の値引きを今後も続けると思われることから、営業利益と営業利益率の予想を引き下げました。もっとも、大きな売上高成長率とそれに伴った利益成長は実現できると予想されます。

表8 スーパー・マイクロ・コンピューター:プロダクトタイプ別売上高(年度ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券。

グラフ4 スーパー・マイクロ・コンピューターの四半期業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の400ドルを維持する

 スーパー・マイクロ・コンピューターの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の400ドルを維持します。

 楽天証券ではスーパーマイクロの2024年6月期、2025年6月期の売上高を上方修正した一方で、営業利益、当期純利益とEPS予想を下方修正しました。しかし、今回のAIブームが続く限りスーパーマイクロは成長企業であり、業績変化率の大きさに対してPERが割安になっていると考えています(2024年6月期の楽天証券予想営業増益率44.5%増に対して予想PER17.4倍、2025年6月期は同63.6%増、10.7倍)。

 一方で、前述のように、2023年4-6月期は世界のAIサーバー売上高でスーパーマイクロは首位だったと思われますが(2位はデル・テクノロジーズ)、2023年7-9月期も首位であったかどうかは、2023年11月30日発表予定のデル・テクノロジーズの2024年1月期3Q(2023年8-10月期)決算を確認する必要があります。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)