個別株の売買手数料は無料へ 素晴らしい取り組み

 楽天証券の口座開設をしている皆さんはご承知のことだと思いますが10月1日より、国内株式の取引手数料が無料化されました。
(手数料コースの変更が必要なことに要注意。設定画面で「ゼロコース」を選択する)

 今までも、個別株式を売買する費用としては十分に低コストのものとなっていましたが、国内を代表とするオンライン証券2社が売買無料化を打ち出したことで、個人投資家にとっては低コストでの運用の選択肢がさらに広がったことになります。

 今回の取り組みは、業界に影響を及ぼしつつあるようで、外国株式の売買手数料無料、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)内での売買手数料無料のような形で、各社が検討を行っている報道がいくつか出始めています。

 振り返ってみると、金融ビッグバンの大号令が発せられ、規制緩和が日本社会にスタートしたとき、特に横並びで一律の手数料体系を打破していくことが問われました。その最先端には、オンライン証券の挑戦、個別株式の売買手数料があったわけです。20年以上の歴史を振り返ってみると、「手数料ゼロ」というのは感慨深いものがあります。

コストを考えたとき、国内個別株投資の魅力は大きく高まってきた

 個別株を投資対象にする人にとっては、今回の取り組みにより国内株式投資におけるコストの構造が変わってきます。「入り口から出口まで無料」で投資できる選択肢となってくるからです。

 投資信託は「購入時(販売時手数料)」「保有期間中(運用管理費用)」「売却時(信託財産留保額)」と各段階でコストが生じます。近年でこそ低コスト競争が繰り広げられたおかげで、購入時は無料(ノーロード)、売却時も無料(信託財産留保額は取らない)となった投資信託が増え、かつ保有期間中の運営管理費用も年率0.2%台で国内外へ投資が行えるようになっています。

 こちらはこちらですごいことですが、国内の個別株についていえば「購入時、保有期間中、売却時」と無料で投資ができるようになるわけで、さらにコストの問題を気にせず投資できるようになりました。

 最後に残る「コスト」は税金ということになりますが、こちらはNISA口座を選択することで非課税のまま投資を終了させることができます。こちらも2024年からの新しいNISA制度により、金額的には大きな非課税投資枠が使えることになります。

個別株で投資をしてきた投資家はスタンスをどう変えるか

 さて、国内株式取引手数料無料の流れを、個人投資家はどう生かしていくべきでしょうか。

 投資のスタンスについてはこれを理由に急変させないことをまずはオススメします。手数料無料化というとまず頭に浮かぶのが、短期売買の魅力が高まる、という印象でしょうが、9月まででも低コストプランが複数用意されており、もともとそれほどの負担ではなかったはずです。

 売買コストが無料であったとしたら、株価そのものが下落しているときの損失確定が私たちの投資の失敗を決定することになりますが、短期的な判断でこれを繰り返してしまうことはうまい方法とはいえません。

 それよりも、「長期保有」でのメリットとしてコスト無料の恩恵を生かしたいところ。もともと株式は保有期間に比例した投資コストが生じないところに魅力があるわけですから、中長期的視点で保有を考えられるなら、購入し長期保有をすればいいわけです(さらにそうした銘柄が現在割安感があれば幸運だがそこはあまり気にしすぎない)。

 ただし、注意したいのは投資エリアの集中です。アセットアロケーション(効率的な資産配分)において、しばしば議論されるのがカントリー・アロケーションの偏りです。簡単にいえば、日本人であり、円ベースで投資をするがゆえに、日本に投資エリアが集中し、投資資金のウエートも偏ってしまうという問題です。

 投資信託を活用すると、手軽に国内外への分散投資を実現させられるのですが、個別株を集め始めると、どうしても国内株式に投資ウエートが偏り始めます。情報収集の難易度もあり、企業選びもどうしても国内寄りになりますし、株主優待も考えるとやはり国内株に資産がシフトし始めます。そして売買コストゼロがこれに拍車をかけてしまいます。

 資産配分を国内株に偏らせないためには、あえて投資信託やETF(上場投資信託)を同時保有し、そこでグローバルの株式やREIT(リート:不動産投資信託)などにも投資対象を分散させておくことがコツとなります。

長期投資家かつ投資信託メインの投資家は、スタンスを変えなくていい

 あなたがもし、中長期の投資スタンスで資産形成を考えていて、かつその中核に投資信託を置いているのなら、無理に個別株の売買手数料無料化の流れに乗る必要はありません。

 部分的に個別株を保有するのはかまいません。インデックス運用よりも個別株の保有のほうが「おもしろい」のは間違いないからです。ただし、ポートフォリオに占める個別企業の割合が高まりすぎることはリスクを高め、また管理の負担を増やすことについては繰り返し指摘をしておきたいと思います。

 投資信託、特にインデックス運用を活用することの最大のメリットはあなたの投資負担が軽くてすむことです。

 仕事に集中するためには、オフの時間に休息が必要です。オフの時間は単に肉体的に休むだけではなく、家族との時間を重視したり、趣味にいそしんだり、キャリアアップのための学習に振り分けることも必要です。

 保有銘柄の評価や見直しなどを行うための情報収集、検討に時間を取られすぎることは、あなた自身のウェルビーイングを押し下げ、投資への意欲を減衰させてしまいかねません。
(あなたが「私は株が好きなんだ!」というならいくらでもリソースを注いでください。ただし資産形成が完全に趣味と化してしまわないような意識は持ち続けてください)

 少額の積立投資をベースに、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISAを活用している人は、その長期積立分散投資のスタンスを継続していけばいいでしょう。

 投資の選択肢がさらに広がることになった、今回の国内株式取引手数料無料のニュース、あらゆる投資家にとって、悩ましい、しかしうれしいニュースとなりそうです。