東証からの異例の改善要請を受けた「PBR1倍割れ銘柄」

 今年3月、東京証券取引所は、プライム市場およびスタンダード市場の上場企業に対し、
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という通知を出しました。

 上場企業に、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価に関して、現状を分析・評価した上で、改善に向けた計画を策定・開示し、その後も取り組みをアップデートしていくことを継続的に実施することを要請したものです。

 特にPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄については、改善に向けた計画の提出とその実行が要請されたことは、記憶に新しいところです。

 これを受け、投資家の間では「PBR1倍割れ銘柄」を投資対象とする動きがにわかに活発化しました。

 PBR1倍割れ銘柄は、それを解消するために何らかの対策を打つだろうから、株価も上昇する可能性が高い、と踏んだのです。

PBR1倍割れの銘柄は減ったのか?

 これまで長い間低PBR銘柄は投資対象外として放置されてきました。それが東証からの改善要請をきっかけとして、株価低迷の長い眠りから覚めるのではないか、と筆者も一瞬は期待しました。

 しかし、そもそもPBR1倍割れの銘柄が、PBR1倍超えの水準まで株価を引き上げることは意外と難しいのが実情です。

 筆者は、時々PBR1倍割れの銘柄の数をチェックすることがありますが、もともとPBR1倍割れ銘柄は全上場銘柄の半数を占めていました。

 現時点においても、若干減少したかな、という程度で、いまだ全上場銘柄の半数近くが、PBR1倍割れにとどまっています。

PBR1倍割れの銘柄がなぜ株価上昇しないのか?

 PBR1倍割れの銘柄の株価が上昇するには、第一に、日本株マーケット全体の底上げが起こらなければなりません。筆者は、株式投資を始めてからしばらくの間(リーマン・ショックの前あたりまで)は、PBRが0.3~0.4倍程度の低PBR銘柄へ投資して、株価が上がってPBR1倍程度になったら売却する、ということを行っていました。

 その頃は定期的にマーケット全体の底上げが起こり、PBRが低い銘柄も総じて株価が
上昇する、という現象が生じていたからです。

 しかし、近年は株価の二極化が進み、マーケット全体が上昇しても、PBR1倍割れの銘柄にまで株価上昇が波及することはほとんどなくなってしまいました。

 日本株のメインプレイヤーである外国人投資家や、大口投資家にとって、PBR1倍割れの銘柄がおそらく積極的な投資対象とはなっていないからです。

 PBRが1倍を割り込んでいる銘柄の多くは、ROE(自己資本利益率)が低く、将来の成長期待も乏しいため、彼らのお眼鏡にかなうことがなかなかないというのが現状なのです。

魅力的な投資対象に生まれ変わることが必要

 では、どうすればPBR1倍割れの銘柄の株価上昇が期待できるようになるでしょうか? それは「魅力的な投資対象に生まれ変わる」ことが必要です。

 具体的には、配当金を増額させる、自社株買いを積極的に行う、ROEを高める、利益成長を実現する、といった内容になりますが、これが実際には難しいのです。

 例えば、配当金の一時的な増額や自社株買いは、確かに株価を多少引き上げる要因にはなるでしょうが、配当金の増額や自社株買いが継続的に行われない限り、株価は再びもとに戻ってしまう可能性が高いと思われます。

 もし、ROEを高めたり、利益成長を実現することができれば、もちろん株価も上昇することになるでしょうが、もしそのようなことができていれば、とっくの昔にできているのではないか、というのが筆者の考えです。

 ですから、東証がPBR1倍割れを改善するよう要請しても、そう簡単にPBR1倍割れの銘柄の株価が上昇するとは思えませんし、実際PBR1倍割れ銘柄は相変わらず大量に残っているのが実情です。

筆者がPBR1倍割れ銘柄から投資対象を選ぶなら

 ただ、中には東証の改善要請をきっかけに、投資家にとって魅力あるものになるべく努力を続ける企業もあると思います。

 そこで筆者がもしPBR1倍割れ銘柄から投資対象を見つけるとしたら、以下の点に注目します。

(1)もともと毎期利益をしっかり出しており、今後の利益が増益になると見込まれる

 PBRが低い銘柄は、業績が良くないものも多いので、現時点でも最低限しっかり利益を上げている銘柄を選びたいです。利益が積みあがれば企業価値も増え、ひいては株価上昇につながるはずです。

(2)配当金が増額され、かつそれが今後も長期間にわたって持続できると見込まれる

 例えば1年間だけ配当金を大きく増額させれば、一時的には株価は大きく上昇しますが、それでは根本的な解決になりません。

 配当性向が低く、かつ利益剰余金やキャッシュがふんだんにある企業であれば、配当金を増額させ、かつそれを長期間続けることができ、それが株価上昇につながります。

 単にPBRが低いから、というだけで投資対象としてもあまり意味がありません。将来魅力的な投資対象になる可能性が高い銘柄をしっかりと選ぶようにしましょう。

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