※本記事は2022年3月8日に公開したものです。
積立投資についてあらためて考えてみた。気づいたことが幾つかあるので、文章の中に番号を振って太字にしてみた。要点を早く知りたい方は、太字部分を拾い読みして頂くといい。
積立投資は過剰に良く見える
今回、積立投資について考えたきっかけは、ある人から株価指数の積立投資のシミュレーション・ソフトを作って、投資の普及を促したいという構想の相談を受けたことにある。投資への最初の一歩が踏み出せない人に投資の模擬体験を提供して、投資の普及を後押ししたいという。完全に善意からのアイデアで、その人にビジネスにしようという意図はない。
だが、「国内外の株価指数に連動した投資信託による長期・分散の定額積立投資は、高いリターンをもたらす合理的な資産形成の手段と知られています」といった前のめりとも言える説明を聞いているうちに、少し疑問が湧いてきた。
もちろん、積立投資に限らず、
(1)長期であっても過去のデータは将来のリターンを全く保証しない
という問題がある。投資を20年で考えるとすると、100年のデータを持って来ても「独立な20年」はたったの5サンプルしかないし、今後に経済構造の変化などの可能性もあるので、「長期投資なら損をしない(はず)」とは、全く言えない。
また、理屈上も、「長期なら損をしない」が正しいなら、投資の高いリターンは成立しなくなるはずなので、「安心」を理由に「投資」を行うことには無理がある。
投資はあくまでもその時その時に行う本人の「賭け」だ。
ただ、こうした議論を別としても、積立投資には、特有の性質があるように思う。
以下、積立投資について気づいたことをまとめてみる。
先ず、
(2)積立投資の過去推移は元本増加の効果で過剰に良く見える
ことが気になり始めた。
シミュレーションと言うと一定条件で確率変数を発生させた大規模な計算をイメージするが、この場合、過去の株価指数のリターンを使って一定の時期の積立投資を行った場合の資産額の推移を数字とグラフで見せるのだろう。
過去の株価を用いた積立投資の資産額の推移で投資が上手く行くことを説明するケースは古今東西を問わず少なくない。
しかし、積立投資の資産額推移をもって株式への投資が上手く行くとする説明には少々危うい点がある。
それは、積立投資の資産額推移が「あまりにも良く見える」ことだ。例えば、計算を簡単にするために年間100万円を年初に積立投資するケースを考えよう。投資利回りは年率5%とする。
20年目の年末には、資産額は約3,472万円になっている。但し、この中身のうち2,000万円は積立の元本が増えた効果だ。つまり、資産額推移で見せる積立投資は、「積立貯蓄の効果」と「株式投資の効果」を合わせたものになっているので、全体の印象で株式投資を評価しようとすると過剰に良く見えている。
これを見せて「投資はいいものです」とアピールして初心者投資家の背中を押すのは、少々気が引ける。
加えて、リスクを見せる上でも少々問題がある。
(3)積立投資資産額の過去グラフはリスクが小さく見える
積立投資の資産額のグラフの縦軸は株価が上がった後の積立投資の終端に合わせて大きな数字になっている。このスケールで見ると、投資の初期段階の株価の振れはごく小さく見える。
もちろん、後で振り返って、初期の段階は投資額・資産額自体が小さいので、初期段階の損益の振れは大した問題ではないと言える面もあるのだが、資産額推移のグラフで株式投資のリスクについてイメージしようとすると、リスクが過小に見えるきらいがある。