(4)「現在」のリスクは過去の積立で小さくはならない

 積立投資は、いわゆるドルコスト平均法の説明と共に「リスクが小さい」と説明されることがあるが、「現在抱えているリスク」は、過去にどのような買い方をしたのかとは全く関係ない。

 これは当然の話なのだが、忘れられやすいポイントだ。

 積立投資が長く続いて(幸いにして)資産額が大きくなっている場合、投資家の事情によってはリスクが過大になっている場合があるかも知れない。資産額が大きいということはリスクの許容額も大きくなっている可能性は大きいが、「積立投資だからリスクは小さいはずだ」と思っていると、リスクを過小評価する可能性がある。

 投資家に対して提供する情報として真に価値があるのは、その時点その時点の、ポートフォリオのリスクを評価する事が出来るリスクの計算機だろう。特に複数の資産を組み合わせた場合のリスクの計算と、そのリスクの家計における評価の両方を評価出来るツールが提供できると好ましい。

 ついでに言うと、

(5)ドルコスト平均法はせいぜい気休めでしかない

 その時、その時の投資の意思決定にとって、過去の買値や取得の平均コストは問題ではない(注:売却時の税金の考慮を除く)。

 定額の積立投資が、ドルコスト平均法が働くから有利なのだという説明は止めておく方がいい。

 尚、等金額投資(ドルコスト平均法的投資)と等株数・口数投資との優劣は、概ねリターンの時系列の相関が正負何れかで決まるが、現実の株価の動きはどちらだとも言えない。

(6)積立投資の初期のリスク額が過小ではないかを考える価値がある

 先に積立投資の終盤のリスク額が過大になる可能性について心配したが、同様の心配は、積立投資初期のリスク額が過小になることにもあり得る。

 例えば、豊かな人的資本を持っているものの現在の金融資産額が小さい若い人のような投資家について最適な投資を考えると、なるべく大きな額を早く投資した方がいいだろうし、場合によってはレバレッジを使ってもいいかも知れない。積立投資でのんびりと投資額を増やすのは機会コストの無駄かも知れないのだ。

(7)積立投資は「最適投資額」が定期的に変化していると考えるといい

 あれこれ心配点を挙げたが、筆者は、現実の多くの投資家が積立投資を行う事に対して反対ではない。

 特に、投資を始めようとする上で「投資するまとまったお金がない」と思っている人は、「まとまったお金」を作るためにも積立投資を始めるといい。

 一方、既に投資できるお金がある人は、そのお金を分割して積立投資で投資に振り向けるのは機会コストの無駄だ。

 例えば、サラリーマンのように定期的な収入がある人は、先月の投資最適額に加えて今月積立投資に回すお金を合わせたものが今月の最適投資額なのだと理解するといい。

「最適額に一括投資せよ」という考えと、「積立投資を行っている」という状態とは、上記のような考え方が成立する場合には矛盾しない。

 積立投資には、

(8)貯蓄を自動化することによる積立貯蓄効果の享受
(9)ルール化することによる実行しやすさ

 といった現実的なメリットがある。

 結局、定期的な収入がある人にとっては、先ず投資できるお金は一括で投資して、その後の収入に応じて投資額を増やすことが適切な場合が多いだろう。

(10)「一括投資+積立投資」が最適な投資になる場合が多い

 と言えるだろう。

 もう一歩進めた状態としては、例えば親子が協力して、

(11)一括投資+積立投資を「二世代運用」でできるといい

 のではないだろうか。

 親世代から子世代への資産の引き継ぎにはさまざまな形があるだろうが、相続のたびに現金化が起こって、投資の機会を無駄にするのはもったいない。親の最期まで親子にとって適切なリスクを取った運用を続けて、相続後の資産を子供が最適に運用し続けるような資産の継承が出来るといい。

 長期に亘って運用されてきた資産の相続について、何らかの優遇措置があるといいと思うのだが、いかがだろうか。

「二世代運用」については、また機会を改めて書いてみたい。

【コメント】

 積立投資に関する記事で、比較的新しい記事の再掲載であり、内容的に修正すべきだと思う点は無い。

 金融庁は投資の3原則を「長期、積立、分散投資」と掲げている。若い資産形成層に働きかける上では悪くないのだが、投資一般の原則としては「長期、分散、低コスト」が勝るように思われる。

 本文にある通り、この記事は、積立投資の過去データが「過剰に良く見える」ことに対する注意と苦言が内容の半分だ。初心者向けを謳う一方、実は上から目線のそれでいて中身のない本や記事では、積立投資の効果が過剰に(不正確に)強調されることが多いので、少し腹を立てながら書いた原稿だ。リスクの考慮も、投資の意思決定も、「これから」が対象であることがポイントだ。

 後半では、一括投資が最適だという考え方と、サラリーマンなどの積立投資の関係を論理的に「調停」している。多くの投資家にとって、「まず一括投資+収入に応じて積立投資」の組み合わせが最適になると思う。

 新NISAを前に確認しておきたい。(2023年9月12日)