これまでのあらすじ
信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。自分たち家族の人生に必要なお金について、話し合い始めた二人は、毎週金曜夜にマネー会議をすることに。夫婦が投資を始めた矢先、海外で大きな紛争が起こり、株も投資信託も価格が大暴落。動揺する理香は…。
暴落した銘柄、すぐに売る?もう少し待つ?
「昨日はゴメン。仕事でほんとに疲れてて」
翌朝、なんとなくぎくしゃくしたままそれぞれの会社に向かった理香と信一郎は、帰宅後もなんとなくかみ合わないまま、金曜夜の定例会議を始めた。
「うん…私もゴメン。でも私のせいでこんなことになっちゃってすごく動揺してて。ねえどうしよう。早めに売った方がいいよね?」
分散投資したはずなのに、全部下がるなんて…次月の積み立てもストップしちゃったほうが…とスマホを見ながらしょんぼりしている理香に、信一郎はため息をついた。
「今、どの商品も、上がってる銘柄なんてほとんどないんじゃない? 世界経済的にも大事件なんだから当然だろう」
紛争や疫病みたいなネガティブ要因は、とんでもないところに飛び火する。直接関係ないはずの企業でも、玉突きで影響が出て当然だ、と信一郎は説いた。
「でも…このまま持ってて、もっと下がったらどうするの…」
理香は不安そうに信一郎を見ている。
「じゃあ逆に聞くけど、売ったとたんに価格が持ち直したらどうする?」
「…」
思わぬ方向からの逆襲に、理香はウッと黙ってしまった。
「それは…考えてなかったわ…。確かにそうよね…、この後、価格が上がるか下がるかなんて、わかんないし」
「工藤さんが強調してたのは[長期]分散投資だろ? 長期って1カ月や2カ月の話じゃないよ」
「…そうよね…。年単位よね」
「いや、10年、20年単位だと思う。理香も[遅すぎたんじゃなくて、間に合った]って言ってたろ。僕は今のところ、長生きするつもりだから、この先の一生を考えると、ここ1~2週間なんて一瞬だよ」
「そうね…ゴメン」
「謝ることはないって」
しょんぼりしてしまった理香の肩をポンポンと叩き、信一郎は励ました。
「でも、理香は感情的だから、投資を始めると、焦ってこうなるんじゃないかなってちょっと思ってたよ」
「どういう意味よ」
理香が嫌な顔をして信一郎を見る。
「どうせ私は感情的ですよ。でもね、シンちゃんは全く話を聞いてくれないし、学習塾のことだって私に任せっきりで…」
ぷっくりと膨れて、なにやら火がついてしまったらしい理香が、あれこれ投資と関係ないことまで言い募り始め、信一郎は慌てて立ち上がった。また余計な一言で理香を怒らせてしまったらしい。
「ら、来週は健の教育費について話そう。さっそく情報収集してくるよ」
そそくさと自室に引っこむ信一郎の背中をにらみながら、うまく逃げたわね、と理香はふくれっ面をした。
ただ、悔しいが、今回ばかりは信一郎が正しい。少しほかのことを考えて落ち着こう、と理香も、近隣の学習塾の比較サイトを
いた。どこもかしこもびっくりするほど高い。しかも、小学校高学年、中学校、高校と年を重ねるごとに、ガンガン値上がりしていくのだ。
「まずは夏期講習とか冬期講習で、本人のやる気と塾との相性を見てみるか…」
理香は、それぞれの塾の期間講習が掲載されている比較サイトをブックマークし、それぞれの塾のレベルや講義内容をチェックし始めた。