不動産業界で話題になっている「タワマン節税の封じ込め」

 今、不動産業界では「タワマン節税の封じ込め」が大きな話題になっています。タワーマンションを使った節税があまりに横行しており、税務当局としては看過できないレベルにまで達したため、ついに評価方法にメスを入れ、実質的にタワーマンションの相続税評価額をアップさせ、節税効果を低減させようとしているのです。

 とはいえ、タワマン節税を完全に封じ込めるわけではなく、戸建て不動産の相続税節減効果を上回る部分は認めないようにする、という改正案となっています(次回詳しくお話しします)。

 つまり、戸建て不動産と同程度の相続税節減効果は残す形です。

 実はちまたでは「タワマン節税の封じ込め」と呼ばれていますが、改正案をよく見ると、影響があるのはタワマンだけではないのです。一般のマンションであっても、実質的に増税につながるケースが多くなっています。

 今回と次回で、タワマン節税封じ込めのための税制改正案の概略が理解できるよう、重要ポイントに絞って解説していきたいと思います。

そもそも「タワマン節税」とは何か?

 ではそもそも、タワマン節税とはどのようなものなのでしょうか?

 相続税の計算をする際、被相続人が所有する財産を金銭的価値に評価して、その評価額に対して税額が決まります。

 そのとき、不動産に対しては、首都圏であれば土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価するのですが、この評価額が時価(通常取引されている価格)よりかなり低く抑えられています。

 ですから、キャッシュのまま保有するより、不動産に換えておいた方が、相続税評価額を軽減でき、ひいては相続税額の節減にもつながるのです。

 不動産であれば、戸建てや通常のマンションであっても、時価より路線価や固定資産税評価額の方が低いことが多いため、評価額を抑えて節税につなげることができます。

 これがタワーマンションの場合、時価と路線価・固定資産税評価額の乖離(かいり)がさらに大きくなるので、極めて高い効果で節税を行うことができるのです。

 例えばキャッシュ5億円でタワーマンションの1室を買ったとすると、この相続税評価額が1億円にしかならず、4億円の相続税評価額圧縮の効果を得ることができます。

現状のタワマン節税への規制は「総則6項」の発動が主体

 今回の税制改正案が発表される前から、当然ながらタワマン節税により過度な相続税の節減を図る事案については、税務当局から否認され、数億円単位での多額の追徴課税が課されたケースもあります。

 ただ、タワマン節税は、それそのものは合法的なものであり、違法性はないため、税務当局の伝家の宝刀と呼ばれる「総則6項」の発動がなされることになります。

 総則6項とは、国税庁が定めた「財産評価基本通達」の第6項のことで、そこには「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と記されています。

 タワマン節税そのものは、財産評価基本通達に書かれている通りの評価方法を実施することで節税が実現するわけです。しかし、財産評価基本通達に書かれている評価方法そのものが、課税の公正の面からみて望ましくないと判断され、今までも税務当局のメスが入った事案はいくつもあります。

 ただ、これだと税務当局がタワマン節税を認めるのか認めないのかの線引きがはっきりしないので、評価方法について一定のルールを定めようとしている、というのが今の動きです。

 なお、今回の税制改正案が通り、税制改正が行われたとしても、総則6項の発動がなくなることはないと思われます。なぜなら、税制改正案をもってしても、かなりの相続税節税効果は残っているため、これを意図的に実行して過度な節税を図ろうとする者が今後も現れる可能性は極めて高いと考えられているからです。

現時点(2023年8月上旬)ではまだ「案」の段階

 なお、このタワマン節税の封じ込めの税制改正については、「居住用の区分所有財産の評価について」の法令解釈通達(案)に対する意見公募手続の実施について、というタイトルでパブリックコメントの募集が受け付けられています(2023年8月21日0時0分まで)。

 したがって、現在一般に出回っている、タワマン節税の封じ込めについての記事やコメントなどは、全て「案」の段階の内容に対してのものである点はお気をつけください。

 多くの場合、パブリックコメントを募集した上で、最終的には国税庁の当初案とほとんど同じ内容に落ち着きます。

 しかし昨年のいわゆる「副業300万円問題」のように、多数のパブリックコメントが寄せられた結果、国税庁の当初案から大幅な修正が行われたケースもあります。

 もし今回のタワマン節税の封じ込めに納得ができず、国税庁へ意見を申し出たいという方は、パブリックコメントについても検討してみてはいかがでしょうか。