迷走を続ける中国の景気動向
中国経済が迷走を続けています。ここ最近のレポートでも扱ってきたように、個人消費、不動産開発投資、若年層の失業率など、主要統計は「景気回復の停滞」を示しているように見受けられます。
今週、ある日本のメーカーで中国経済を見ている担当者から、「中国で個人消費が伸びないのは、人々の将来、先行きに対する期待値が下がっていることが原因なのではないか?」という問題提起を頂きましたが、その通りだと思いました。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」策が約3年続き、その間に疲弊、困窮した経済、市場、企業が、それが解除されたとはいえ一気に回復できるわけではないという実態が浮き彫りになっています。
また、異例の3期目入りした習近平(シー・ジンピン)政権の政治動向、経済政策、外交関係なども、市場や消費者に不透明感を与えているようで、不況感と悪循環をあおっているように見受けられます。
直近の経済統計を見てみましょう。
中国税関総署が8月8日に発表した7月の貿易統計によれば、輸出は前年比14.5%減、輸入は同12.4%減で、いずれも市場予想を上回る減少でした。外需の鈍化、商品価格の下落などが影響していると見られます。
次に、国家統計局と財新がそれぞれ発表したPMI(製造業購買担当者景気指数)です。調査の対象に関して、PMIは国有企業の比重が高く、財新PMIは経済が発展した沿岸部における中小企業のウエートが高い、言い換えれば、景気の上下動に対してより敏感な反応を示す企業を対象にしています。
7月のPMI
PMI | 財新PMI | ||||
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製造業PMI | 49.3(+0.3) | 49.2(▲1.3) | |||
非製造業PMI | 51.5(▲1.7) | 54.1(+0.2) | |||
国家統計局と財新の発表を基に筆者作成。 PMIは国家統計局が発表、財新PMIは財新が発表。()は前月比増減。▲はマイナス。 |
両者ともに、製造業PMIが景気の良しあしを測る分かれ目である50を下回っており、内需の低迷、および上記の貿易統計にも表れているように、新規輸出受注が落ち込んでいる現状も影響しているでしょう。非製造業、すなわちサービス業はいずれも50を上回っていますが、両者の数字には乖離(かいり)が見られ、景気動向が錯綜(さくそう)している現状を反映しているようです。
中国政府は景気支援策を五月雨式に打ち出すも不安要素あり
停滞感、不況感が漂う中、中国政府は景気を下支えすべく躍起になっているように見受けられます。最近の動向を振り返ってみます。
日時 | 党・政府機関 | 内容 | |||
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7月14日 | 党中央、国務院 | 民営経済の壮大な発展を促すためのガイドライン | |||
7月24日 | 国家発展改革委員会 | 民間投資の積極性を一段と促すための通知 | |||
7月28日 | 国家発展改革委員会 | 消費を回復、拡大させるための措置 | |||
7月31日 | 国務院常務会議 | 段階的景気支援策の継続性について審議 | |||
中国政府オフィシャルサイトを参考に筆者作成 |
これらの動向から如実にうかがえるように、党と政府は、「ゼロコロナ」策下で疲弊、困窮した「民間」の動きを促すための政策を打ち出しています。また、消費と投資という両側面から需要不足という足元の構造的課題を打開したいという心境も透けて見えます。消費の促進に関しては、自動車、特に新エネルギー車、住宅、家電、飲食、観光、エンターテインメント、スポーツといった分野を促していくとうたっており、その過程で、環境政策、農村振興、デジタル経済のさらなる進化を狙うという「野心的」な姿勢も見て取れます。
一方、中央政府がこの手の政策、声明を出したところで、実際に、企業家、投資家、消費者が経済活動にどう向き合うかは別問題であり、その意味でいうと、やはり冒頭で示した先行きに対する期待値の低下、自信の欠如といった、中国経済に漂う悪いムードが障害になっているのではないか、というのが、私が6月下旬に3年半ぶりに中国を訪れた実感です。
「災害リスク」というチャイナリスク
昨今、中国東北部や北部が記録的な大雨に見舞われています。道路寸断や冠水といった洪水被害が相次いでいます。例えば、北京市と河北省で合わせて40人以上が死亡し、行方不明者も後を絶たない状況です。また、8月6日、東部の山東省でマグニチュード(M)5.5の地震があり、20人以上が負傷、住宅126棟が倒壊したとされます。
洪水、地震といった「天災」がもたらす被害、残酷さについては私たち日本人にとっても他人事ではありません。一方、中国で災害が起こるたびに私が考えるのは、インフラを巡る脆弱(ぜいじゃく)性、建物の耐震性を巡る疑念、および実際に被害が発生した際の危機管理システム、国民の防災意識・行動などを巡る不安要素です。災害に見舞われたとしても、これらの体制がしっかりしていれば、被害は最小限に食い止められますが、逆もまたしかりです。
私がここで指摘したいことは、天災が「人災」と化した場合、それが中国の経済社会にもたらすリスクは計り知れないという点です。多くの日本企業が中国各地で事業を展開していますが、サプライチェーン(供給網)、生産、物流、販売などを含め、日本企業が中国でビジネスをしていく上で、日本経済が中国経済と共存していく上で、「災害リスク」とどう向き合い、回避するかという課題を、今一度認識し、準備していく必要があると強く思います。