これまでのあらすじ
信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。自分たち家族の人生に必要なお金について、話し合い始めた二人は、毎週金曜夜にマネー会議をすることに。ただ、聞いたこともない投資用語の連続で頭を抱えてしまった二人は…
投資、今スグ始める?来年まで待つ?
1.投資で得た利益にも税金がかかる。
2.でも利益に税金がかからない制度がある。それがニーサとイデコ。
3.ニーサは長期投資、イデコは年金感覚。
4.最低100円からでも投資はできる。
信一郎のノートに書かれた文字と、Webの検索結果を見比べながら、理香が言う。
「5つ目を追加して。ニーサっていう制度は2024年から制度が変わったらしいわよ」
よし、と信一郎はペンを走らせた。
5.ニーサは2024年から制度が変わった。
「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)についても、ちゃんと勉強してから始めたほうがいいんじゃないか?」と信一郎が言うと、理香は眉をひそめた。
「私、絶対、途中で失速する自信がある。健の学童や美咲の保育園の手続きに追われて、絶対、モチベーションが落ちちゃうと思うんだ」
それでそのまま、ずるずる機を逸するのよ。マイケルは「思い立ったら吉日」って言ってたわ。そう理香が言い、信一郎は腕組みをした。
「年の半ばに始めるのか…中途半端なのはイヤなんだよな…」
「実際に投資するのはいつでもできるとして、準備だけでも今やっといたほうがいいんじゃない? どうせ口座開設したりするのにも時間がかかるんでしょ」
「そうでもないらしいよ」
と信一郎がページを開いて理香に示す。
「ネット証券なら、2日くらいで口座開設できるみたいだよ」
「え、でも、もう夜よ?」
「免許証とかを写真にとってアップロードするって書いてあるよ。イデコは数カ月、口座開設に時間がかかるけど、ネット証券の口座を開設するのは何時でもできるみたいだよ」
「やってみようよ!」
理香が身を乗り出す。
「開設するだけならタダなんでしょ?」
「無料って書いてある」
「今やろう!」
「え、もうこんな時間だよ…」そろそろめんどくさくなってきた信一郎は消極的だ。
「夜で、健や美咲が寝てる時間だからできるんじゃない。今日やらないと来週まで持ち越しなのよ。あ、シンちゃんは証券会社に口座があるんだったっけ…。証券口座って二つ持ってちゃいけないの?」
「そういう制限はないよ。銀行口座と同じだな」
「ならいっしょにやろうよ。大丈夫。ネット上での作業や申請なら慣れてるもん。いっしょに証券会社に口座作ろうよ」
「うーん…、どの証券会社にすればいいかもうちょっと考えたほうが…」
「いくつ作ってもいいなら、使うか使わないかは後で決めればいいでしょ。とにかく一つでもいいから開設しよう!今やっちゃえ!」
スマホを押し付けられ、信一郎はしぶしぶ、雑誌のQRコードを読み取った。
理香もスマホで同じページを読み取る。
「次、名前と住所を入力するんだって」
「よし……。したよ」
「免許証か、マイナンバーカードが必要らしいわ。顔写真が載ってる本人証明書」
手順が書いてある雑誌を理香が読み進める。
「じゃあ写真撮って」
自分にカメラを向けた信一郎を理香が慌てて止める。
「違う違う、免許証の写真を撮るの。裏面も撮って。そんで、真ん中のアップロードっていうボタンを押して…。そうそう」
「できたよ」
「じゃあ、次はメールが届いてるかどうかを見て」
そろそろ眠くなってきた信一郎は、反逆する意欲もなく、理香の言うまま、指を走らせた。
「あれ、開設できたみたいだよ。メールが来てる。正確には2営業日後から投資ができるらしい」
「私にも届いた! わー、スゴい。私たち投資家夫婦だよ」
「何も投資してないのによく言うよ」
信一郎は苦笑いした。
「理香」
「何?」
「この先は、来週でいい? もう眠い…」
「ふわぁ…私ももう限界かも」
来週までこれ借りてていい?と理香はイラストが一番多い雑誌を手にとった。
「OK。僕はこっちの本を読んでみる」信一郎は資産形成系の厚めの書籍を取る。
来週までに何を買うか、情報収集しなくっちゃ!と理香はうきうきと缶をまとめて分別ゴミに放り込む。
アルミ缶の乾いた音が、藤元夫婦の投資生活開始のファンファーレとなった。