これまでのあらすじ

 信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。自分たち家族の人生に必要なお金について、話し合い始めた二人は、毎週金曜夜にマネー会議をすることに。無事ネット証券の口座を開設できた二人は、いよいよ資産形成を始めることに!

つみたて投資枠と成長投資枠、どっちを選ぶ?

 金曜の夜、信一郎と理香はじゃんけんの姿勢で身構えていた。成長投資枠とつみたて投資枠、せっかくだからお互い別のNISAを選んでみようということになったのだ。

「じゃんけんホイ!あいこで…ホイ!」

 勝った!と信一郎がパーを上げる。負けたーと理香はガックリと椅子に座った。

「買った方が先に選んでいいんだよな。僕は…成長投資枠を選んでみるよ」

 えー、意外!と理香は目を見張る。

「絶対つみたて投資枠を選ぶと思ってた」

「理香が成長投資枠をやるのが怖いなって思ったからだよ」

「どういう意味よ」と理香はぷぅ、と膨れてみせた。

 先週の金曜日、ネット証券口座の開設に成功した二人は、翌週金曜日の今日、もう一つ深刻な問題につきあたった。

 それは、NISAという制度には、株などが買える「成長投資枠」と、月々同額、つみたてていく「つみたて投資枠」という2種類があるということを信一郎が伝えたためだ。

制度名称 成長投資枠 つみたて投資枠
年間投資可能枠 120万円 240万円
非課税保有期間 無期限
非課税保有限度額 1,800万円(成長投資枠は1,200万円まで)
購入方法 いつでも可 定期的に継続して買い付ける
口座開設期間 恒久化
投資対象商品 上場株式・投資信託等(除外条件あり) 長期の積立・分散投資
に適した一定の投資信託
対象年齢 18歳以上

 NISAでなくても投資はできる、と主張し、すぐにも投資を始めたがっていた理香を「NISAじゃなかったら、儲かった分に税金がかかるんだぞ」となだめすかし、すっかり大儲けする気分でいた理香もその理屈には納得した。そして、二人そろって、NISA口座を開設することになったのだが、それぞれ年間の上限投資額が異なり、購入できる商品も違うという点で、どっちがどっちを取るか、で論争に発展したのだ。

 二人とも同じタイプではなく、別のやり方を選んで「いったん、どんなものかを体験しよう」というところまでは意見が一致したものの、上限額が大きく株式も買える「成長投資枠」を取りたがる理香に「じゃんけんで買った方が優先権を持つ」と提案したのは信一郎だ。大胆で楽観的な理香が思いつくまま株を買うなど、恐ろしくて見ていられない。絶対勝ちたい勝負どころのじゃんけんではグーを出す、という理香の癖を知っていた信一郎は、見事勝利し、成長投資枠を選択した。

「株とか買ってみたかったのに…」とぶぅぶぅ言っている理香を「投資信託にも米国株に投資しているものもあって今すごく人気らしいよ」と信一郎は納得させた。

 信一郎のノートには、すでに

6.投資信託とは、いろんな商品をパッケージにして投資する商品のこと
7.投資信託は投資のプロが投資先を選んでくれる

というメモが追加されていた。

「ま、いいや。シンちゃん、ディズニーランドの株買ってよ。会社名はディズニーランドじゃなくてオリエンタルランドっていうらしいわよ。施設名と企業名って違うのね」

「ユニクロも会社名はファーストリテイリングだから、サービス名と企業名が違うのは珍しいことじゃないと思うよ。でも、ディズニーランドはいいな。健と美咲も喜びそうだし…って…」信一郎はスマホで株価を調べて驚き、顔を上げた。

「1株5,000円以上するし、それに株って、100株単位でしか買えないみたいだぞ。50万円くらいかかるよ、最初からそんな大金を投資するのって、危険だよ」

「ええっ! そんなに高いの?!」

 ショックを受けている理香に、「いい会社はやっぱり株価も高いってことだよ」と信一郎は声をかけた。「その代わり、500株以上持っていると、ディズニーランドの1デーパスポートがもらえるぞ」

「え、何それ!」

「株主優待っていって、株を持っている株主にプレゼントしてくれるんだ。そういう制度があるのは知ってたけど、これいいな」

「いいわね! でも500株って…」

 またガックリとうなだれた理香に「ボーナスがでた時に、頑張って買えばいいんじゃないか?」と信一郎が声をかける。

「100株ずつ5回買えば500株になるし、それだけ[資産]になるっていうことだよ。長期でコツコツ増やしていけばいいよ。入場券はあくまでオマケだから」

 でも、買うとなると、会社のイメージや認知度だけじゃなくて、企業の経営状態とかも調べないとな…と信一郎は新たに買ってきた「会社四季報」を広げた。

「スゴイ分厚さね」

「ネットで調べたほうが早いかもしれないけど、念のために買ってみた。投資家気分がアガるかなって」

「確かに。投資家っぽい」

8.株は基本、100株から購入する(100株以下で買えるサービスもある)
9.株主へのお中元やお歳暮的な「株主優待」という制度がある(優待を受けるには100株以上保有などの条件があることが多い)。
10.会社四季報には日本の全上場企業の詳細な情報が書いてある。

というメモを追記しながら、信一郎は四季報をめくった。

「取引先で、規模は小さいけれど最先端の研究をして実績を着々と上げている、医薬品の基礎研究をしている会社があるんだよ。社長にもあったことあるけれど、若いけどスゴイできる、人格もすばらしい社長なんだ。利益も上昇中だったと思う。その会社は上場してたはずだけど、今、株価はいくらくらいかな」

「知ってる会社があるならそれもいいわね。怪しい会社かそうじゃないか、倒産しそうかしなさそうかも分かるし」
と理香がうなずく。

「でも、もっと派手な、トヨタ自動車とか、味の素みたいな、みんなが知ってる会社の株をバーンと買ってほしいわ」

「な、僕が成長投資枠でよかっただろう? 理香のミーハー魂がさく裂したらどうなることやら…」

 ミーハーってなによ、と理香がまた膨れる。

「だってそうだろ、みんなが知ってる派手な会社は、きっと株価も高いよ。僕はまず、何を買うかより、いくら買うか、の上限を決めようと思うんだ」

 僕がよくいくゴルフ場のコースのプレー料金が2万円くらい、往復の高速やガソリン代、食事代で1万円くらい。合計で3万円くらいかかる。ゴルフを1回ガマンするつもりで、3万円くらいで買えそうな株を探してみようと思ってるんだよ、と信一郎は少し残念そうな顔で言った。

「そうね。ゴルフに行ったら消えちゃうお金だもん。ゴルフ貯金のつもりで投資っていうのもいいかも」

 理香の機嫌が急によくなった。付き合いゴルフで恥をかかないように、という名目で、平均月2でゴルフコースに行く信一郎を内心良く思っていないことがよく分かる。帰宅すると明らかにテンションが低い理香の機嫌を取るために、帰りにケーキを買ったり外食に誘ったりするお金も入れるなら、3万5,000円くらい出せるな、と信一郎はこっそり考えた。

「シンちゃん、どの株買うの? 人気ランキングの中から買うの?」

「人気があるからいい会社かどうか分からないだろ? 何を買うかはまだ決めない。もうちょっとちゃんと調べて、株価もちゃんとみて、これならって思う株を探してみる。それじゃダメか?」

 シンちゃんらしいわね、と理香がうなずく。「私ならパッと目立つ、有名な株や、人気ランキングの上から買っちゃったかも。確かにシンちゃんが成長投資枠で正解だったかな」

「でも、いつまでも迷ってたら、理香が言うように投資する機を逃しそうだから、来週までには決めて、何かしら買うよ。そのときはちゃんと理由も説明する」

「うん、楽しみにしてる」

 信一郎のお眼鏡にかなう企業は、おそらく自分には縁のない企業だろうと理香は思う。ただ、自分が思いつかない分野の株を買ってもらうのも、「分散投資」としてはいいかも、と理香は思った。この「分散投資」という言葉も、先週借りた雑誌で覚えたての言葉だ。

「シンちゃん、メモに書き足して。分散投資が大事って」

「OK」

 11項目を追記して、信一郎はうなずいた。

「ところで理香、つみたて投資枠で買えるのは投資信託だけらしいけど、何にいくらずつつみたてるの? 何か考えてることはある?」

「それなんだけど…」

 理香はバサッと雑誌を閉じ、その上に突っ伏した。

「投資信託って、なんでこんなにたくさんあるのよ?! 似たような名前のがいくらでも出てくるし、調べてもどこがどう違うか全くわかんないの…。これ、どうすればいいの?!」

<2-4>似たような名前の投資信託、どうやって選べばいい?