相続税は都心部では「身近な税金」

 筆者の本業は公認会計士、税理士です。最近は相続関連の仕事が増えていて、先日も都内23区某所で相続相談会を開催してきました。

 今回も数多くのご相談者の方がお見えになりましたが、そこで強く感じることは、「本当に普通のご家庭でも自宅をお持ちだとまず相続税がかかってしまう」という点です。

 例えば23区内にご自宅をお持ちでその相続税評価額が5,000万円、それに預金1,000万円、上場株式や投資信託1,000万円の合計7,000万円を保有している、というような方は大勢いらっしゃいます。会社員として普通に質素な暮らしをしているだけでもこの程度の財産はたまります。

 上記のケースであれば、相続人が配偶者と子供2人の計3人だと基礎控除が4,800万円ですから、相続税の課税財産7,000万円より小さいです。したがって、相続税の課税対象となるのです。

 多くの場合、上記の状況であっても配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例を適用することで相続税額をゼロとすることはできますが、相続税申告は必要となります。

相続財産1億円程度では相続税対策は正直不要

 相続相談で多いのが、「我が家も相続税対策をした方がよいのでしょうか?」というご相談です。

 ご近所や親戚の相続で多額の相続税がかかった...という話を聞くと、私たちも対策しておかないと大変なことになるのでは?と漠然とした不安を抱えている方がとても多いのです。

 でも、正直申し上げて、相続財産が1億円程度であれば、特段の相続税対策は必要ないと思います。

 都心部にご自宅があり、それに預金や株式などの金融資産を加えると1億円前後の財産となる、という方はかなり多いですが、そうした方の場合は無理に対策をしなくとも何とかなるケースがほとんどです。

 3億円くらいまで相続財産が膨らむと、生前贈与など各種対策をすれば、節税効果は結構高くなりますが、相続財産が1億円だと、対策してもそこまで大きな節税効果が得られないのです。

相続財産ごとのケーススタディ

 例えば次のような家族構成で、相続税がどのくらいかかるか、そして典型的な対策である生前贈与を行うことでどの程度の節税効果があるかを比較してみたいと思います。

・家族構成:夫、妻、長男、長女
・夫に相続が発生するケースを前提
・遺産分割は法定相続割合とする
・配偶者の税額軽減は考慮するが小規模宅地の特例は考慮しない
・生前贈与は長男・長女および孫3人の計5人に、1人100万円ずつ6年(計3,000万円)
・生前贈与の持ち戻しは考慮しない

〇相続財産1億円の場合

相続税額:345万円
3,000万円生前贈与した場合の相続税額:113万円
節税効果:232万円

〇相続財産3億円の場合

相続税額:2,860万円
3,000万円生前贈与した場合の相続税額:2,335万円
節税効果:525万円

 上記のように、相続財産3億円の方が、同じ額を生前贈与した場合の節税効果が高くなっています。

 相続財産1億円の場合も、そこそこの節税効果はありますが、金融資産をそれほど多く持っていない場合、多額の生前贈与をしてしまうと贈与者ご自身の生活資金がなくなってしまうという本末転倒なことが起こりかねません。

 税金を減らすことも重要ですが、それよりも贈与者ご自身の老後の生活に必要な資金をしっかりと確保しておくことが節税よりもはるかに大事なことです。

対策が必要かどうかを見極めるために必要なこととは?

 では、「我が家も相続税対策が必要なのだろうか?」という疑問をお持ちの方は、まず何をすればよいのでしょうか?

 それは、相続財産が現時点でどのくらいあるかを確認すること、いわば「現状把握」をすることです。

 実は、現状把握をしっかりと行っている方はかなり少ないです。大多数の方が、現状相続財産がどのくらいあるかを分かっていないまま、漠然とした不安だけをかかえているのです。

 しかしその状況では、我が家にとって実行すべき対策は具体的にどのようなものなのか、そしてそもそも相続税対策そのものが本当に必要なのかどうか、判断することはできません。

 ですから税理士の立場としては、何はともあれまずは「現状把握」をしていただくことを強くお勧めします。それがなければ、必要のない相続税対策を行い、逆に財産を減らしてしまったり、納税資金が不足してしまったり、遺産分割の時にもめる火種を作ってしまったりすることもあるからです。