Profile
臨床心理士・公認心理士
青木美帆(あおき・みほ)
企業研修の講師や、経営者、外資系企業の営業職に対するメンター、夫婦関係の悩みカウンセラーまで幅広く活動中。家計やお金のトラブルなど、身の回りのさまざまな悩みに対する心理支援を得意としている。

「投資に回すお金がない」「忙しい」…その裏側にある心理とは

 投資に興味があるのに、なかなか重い腰が上がらない…。このような事態は、なぜ起こるのか。心理学の視点から、「あなたが投資をしない本当の理由」をひも解いてみましょう。

 投資の初心者は、長期投資で時間を味方につけることが重要であるといわれています。投資期間が長ければ長いほど、運用して得た利益を元本に加え、さらに大きなリターンを得る「複利」効果が期待できるためです。

 しかし、論理的に考えると「少額でもいいからなるべく早く投資を始めた方が良い」とわかっているのに、なぜか実行に移すことができない、という方も多いはず。実際に、投資に関心がありながらも踏み出せない人によく聞く「投資をしない理由」について考えてみます。

投資をしない理由

(1)元本割れが怖い(失敗した時のリスクが怖い)
(2)必要な時にお金を引き出せなくなるのが嫌
(3)まだ勉強中、知識不足
(4)投資に回すお金がない
(5)とにかく忙しくて口座開設の時間がない

 

 このような理由をあげる時、私たちには次のような無意識の心理が働いている可能性があります。

I.損失回避:無意識のうちに、利益を得るよりも損することを避けようとする心理現象のこと

 上記の(1)や(2)のように、私たちは利益を得ることよりも金銭的な損失や困った状況を避けたいと思う傾向があります。必要な時にすぐに使えて、お金がマイナスにならない現預金に比べて、引き出すのに手間がかかり、元本割れの恐れがある投資の方が、ハードルがはるかに高く感じられるのです。

II.確証バイアス:自分の感覚や意見を支持するような情報ばかりを優先して受け入れてしまうこと

(3)や(4)の背景には、「株式投資は知識がないとできない、損をする」「ある程度まとまった資金がなければ意味がない」といった考え(思い込み)があるかもしれません。少しでもこのような考えを持っていると、私たちは日々の生活の至るところで無意識に自分の考えを後押しするような情報を集めてしまいます。

 投資への参入が遅くなればなるほど、「投資を始めない方が良い理由」で頭をいっぱいにしてしまうのです。

III.コンフォートゾーンの超越に伴う不快感情・反応:自分にとって安心で快適な状態や行動の範囲を超える(コンフォートゾーンを超越する)と、それまで活用していた知識やスキルが使えなくなる、目の前の状況に対処することが難しくなる、新しい知識やスキルの習得にエネルギーを要する、といった可能性が高まり、恐怖や強いストレスを感じてしまうこと

(1)~(5)は、自分自身や状況が変化することへの心理的な抵抗の表れであるとも考えられます。私たちはコンフォートゾーンを超えようとする際に、脳が自分自身にさまざまな言い訳をして変化を起こさないように働きかけます。

 そのため、投資という分野や行動が自分にとって新しければ新しいほど、恐怖やストレス反応といった不快な感情が生じ、それが投資への参入障壁となることが多くあります。

自分の意志通りに行動するためには?

 上記を踏まえると、もしも、あなたが投資に向けてあと一歩をなかなか踏み出せないでいる時にメリットとデメリットを比較してしまえば、きっとデメリットの方が大きく感じられて、より足が遠のいてしまうことでしょう。

 少しでもネガティブな考えを抱いていれば、頭では投資が気になりつつも、自分の意志とは関係なくズルズルと「投資をしない」という選択肢を取り続けることになってしまいます。

 このような無意識の心理的な動きに振り回されず、自分が取りたい選択肢を選べるようにするには、行動に注目して次のようなスモールステップで進めていくことをお勧めします。

・まずは口座の開設だけしてみる
・実際に投資をしている人に5分だけ話を聞いてみる
・毎月100円から積立投資を始めてみる
・自分の知っている会社や好きな会社の株を1万円だけ買ってみる

 すると、無意識に自分を縛っていた心の動きに左右されず、自分の取りたい行動をとることができます。少しずつ知識と経験が蓄積されていくことで、さらに次の行動を起こせるというサイクルができるのです。

 ちなみに、このスモールステップ方式は株式投資に限らず、「何か新しいことに挑戦したいけれど踏ん切りがつかない」という状況にも応用できます。頭と行動が一致せずに悩んでいる時は、ぜひ思い出してみてください。