今回のサマリー

●米利上げの打ち止めは5月か6月という見方が主流
●市場では、利上げ打ち止めを重要イベントとし、歴史的にその後は株高とはやす声も
●利上げ停止期の株式「中間反騰」というテクニカルな反応は足元で発生中
●利上げ打ち止め自体は、株価の基調を捉える上では重要でなく、見るべき条件は別

いよいよ米利上げ打ち止めへ

 米利上げは5月か6月に打ち止めと市場は織り込んでいます(図1)。2月のノーランディング論(米経済はランディング、すなわち着陸することなく飛行し続け、利上げもまだまだ繰り返されるという見方)は、3月の銀行破綻によって打ち砕かれました。

 FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレ抑制へタカ派の利上げ姿勢と、金融不安が再燃しないようにハト派的配慮の是々非々対応が続くでしょう。経営不安に見舞われた中小金融機関は、自らの資金繰りを気にしつつ、貸出の厳格化に動かざるをえません。FRBは利上げを推進しなくても、銀行貸出の滞りによる金融引き締め効果が、経済に及ぼす悪影響を注視することになります。

 市場では、FOMC(米連邦公開市場委員会)の5月3日の0.25%利上げを90%ほど、6月14日の0.25%追加利上げを25%ほど織り込んでいます。この予想は、インフレ下げ渋りとか景気堅調持続となれば、引き上げられ、金融不安再燃、景気後退懸念となれば、あっさり利下げ見通しにもなるでしょう。

 要は、予想は確固たるものではなく、変転しやすいので、柔軟に構えておく必要があります。株式市場は過去1年には1~2カ月ごとに経済への強気と弱気、利上げ終息への楽観と悲観を切り替えています。  

 相場が上がるか下がるか次第で、見方が揺れ動くのは市場の常ながら、ファンダメンタルズと金利の基調を無視する節操の無さについては注意が必要です。

 それでも、利上げを繰り返し、長短金利が景気中立水準を大きく上回り、より長い期間の金利が低くなる逆イールド状態になり、そこに金融不安に伴う貸出態度の厳格化がそろう現時点では、利上げ打ち止め予想にもいよいよ一定の妥当性があると言えます。

図1:米主要金利とFF金利(+市場予想)

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

利上げ打ち止めの重要度

 これまで何度もFRBの利上げペース鈍化をはやしてきた市場は、利上げ打ち止めがいつかいつかと関心を高めています。利上げ打ち止め後の株式、金利、為替、さらにインフレ、景気の行方について、さまざまな分析や論調が出ているでしょう。しかし、株式相場にとって、利上げ打ち止めそれ自体はあまり重要な問題ではないはず、と考えています。その点をサイクル投資の観点から整理します。

 図2は、過去の米利上げ停止前後に株価がどう推移したかを描いています。シンプルに解釈すれば、米政策金利の天井到達時点から50週先まででは、株高7勝に対して株安3敗、15週では株高7勝に対して横ばい程度の引き分け3回になります。米利上げ停止は株高要因であり、買い場という訳です。この種の分析は営業トークになりがちです。

「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という相場格言があります。また「This time is different(今度は違う)」もよく言われる教訓ですが、二つの側面があります。一つは「歴史は繰り返さない」から違いを入念に調べろということ、もう一つは「歴史は韻を踏む」から「今度は違う」などと言ってないで過去の事例をよく見ろということです。

 一見相反する教訓のようでも、分析者の実践としては同じことです。過去に相場は何勝何敗だったと割り切る単純化はしないで、相違の精査が必要という戒めです。利上げ開始、選挙、戦争など、何らかのイベントがあると、それを挟んで相場はどう動いたかという分析が必ず紹介されますが、分析としてはあくまで初級レベルのものとご理解ください。

 図2で利上げ打ち止め後の株価動向は…と解説する場合、最後の利上げタイミング以外の要素・条件は全て捨象していることになります。図3で、1980年以降のFF金利の推移を軸に、インフレ状況、景気後退の時期、そして株価の動きを照らし合わせて見てください。利上げ打ち止め後も景気後退を伴わないケース、サイクルとしてほとんど意味を成さないほどの小幅な利上げ打ち止めケースなど、単純比較するのはいかがなものかと思えるところも、株価の勝敗に加えられています。

図2:米政策金利ピーク到達前後のS&P500種指数

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

図3:米FF金利、CPI(消費者物価指数)、株価と景気後退期

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ