ASMLホールディング
1.2023年12月期1Qは90.9%増収、営業利益2.8倍
ASMLホールディングの2023年12月期1Q(2023年1-3月期、以下今1Q)は、売上高67.46億ユーロ(前年比90.9%増)、営業利益22.05億ユーロ(同2.8倍)となりました。前4Q決算時の今1Q会社側ガイダンス、売上高61億~65億ユーロ、営業利益17.39~20.00億ユーロを上回りました。EUV露光装置、DUV露光装置ともに検収が進んだため、売上高が会社側ガイダンスを上回りました。売上総利益率は会社側ガイダンス49~50%をやや上回る50.6%で、研究開発費と販管費はユーロ高ドル安と一時的要因の影響でガイダンスをやや下回りました。
今1Qのシステム売上高(ハードウェア売上高)は53.42億ユーロ(同2.3倍)となり前期比でも増収となりました。会社予想以上にEUV露光装置とDUV露光装置の売上高(収益認識)が増加しました。一方で、サービス売上高は14.04億ドル(同12.6%増)で前期比では減収でした。景気後退により半導体需要が減少したため、ソフトウェアのアップグレード需要が少なかったためです(半導体景気が上向くと、露光装置の生産性改善のためにソフトウェアのアップグレードが増加する傾向がある)。
表4 ASMLホールディングの業績
2.EUV露光装置、DUV露光装置ともに売上高は好調
EUV露光装置の出荷台数は、前3Q13台、前4Q18台から今1Q9台に減少しました。これは、顧客の求めに応じて出荷を最優先した結果、前期末までに出荷できた台数が多かった半面、今1Qにその反動がでたものと思われます。1年前の前1Q出荷台数も9台でした。
一方でEUV露光装置の販売台数(収益認識)は前3Q12台、前4Q13台から今1Q17台へ順調に増加しました。EUV露光装置売上高(会社開示の売上構成比より楽天証券計算)は前4Q23.27億ユーロから今1Q28.85億ユーロへ増加しました。
また、ArF液浸露光装置の販売台数は前4Q22台から今1Q25台に、売上高は同じく14.72億ユーロから16.03億ユーロへ増加しました。KrF露光装置も高水準の売上高を維持しました。ArF液浸、ArFドライ、KrFのDUV露光装置は、20ナノから以前の微細化世代のロジック半導体の中国における需要が増加しているため、今後も好調が予想されます。中国ではEVの生産販売台数が増加するにしたがって、28ナノ、45ナノのEV向けロジック半導体の需要が増えています。また、AIを使う電子機器が増えているため、同じような微細化世代のセンサの需要も増えています。
ASMLにとって中国は、アメリカの対中国半導体製造装置輸出規制の縛りはあるものの、重要な市場になっています。2022年10月に強化されたアメリカの対中国半導体製造装置輸出規制により、アメリカ製だけでなく、日本製、欧州製の半導体製造装置も中国に輸出する際に10ナノ台から先の生産ライン向けに出荷できなくなりました(ASMLでは従来通りEUV露光装置が中国に輸出できないだけでなく、ArF液浸露光装置の中国向けが制約を受ける)。そのため、中国の半導体メーカーでは20ナノ台から昔の微細化世代に設備投資を集中する傾向が出ています。
そして、前述のEV、センサの事例を見ると、20ナノ台から昔のロジック半導体に大きな需要があることが明らかになっています。ASMLの中国向けも拡大しつつあり、2023年3月末の受注残高389億ユーロ(2022年12月末は404億ユーロ)のうち約20%が中国向けのDUV露光装置です。ちなみに、3月末受注残高の50%強がEUV露光装置、50%弱がDUV露光装置他ですので、DUV露光装置受注残高のうち40~50%が中国向けになります。
表5 ASMLホールディング:売上高内訳(四半期)
表6 ASMLホールディングの機種別売上高、販売台数、単価(四半期)
ASMLホールディング:EUV露光装置の売上高、販売台数、単価(四半期)
ASMLホールディング:ArF液浸露光装置の売上高、販売台数、単価(四半期)
ASMLホールディング:KrF露光装置の売上高、販売台数、単価(四半期)
グラフ7 ASMLのEUV露光装置:受注台数、出荷台数、販売台数
3.今1Qの受注は減少したが、今2Q以降回復か
今1Qは売上高は好調でしたが、受注高はEUV露光装置、DUV露光装置ともに急減しました。全社の新規受注高は前4Q63.16億ユーロから今1Qは37.52億ユーロに減少し、このうちEUV露光装置は34億ユーロから16億ユーロに減少しました。会社側では経済情勢と半導体メーカーの在庫調整の厳しさから予想されたものとしています。
ただし一方で、来期2024年12月期の露光装置全体の出荷台数と売上高は2023年12月期よりも増加する見込みですが、受注済みなのは2024年12月期2Qまでの出荷分までで、2024年12月期3Q以降の出荷分はまだ全部受注していません。会社側は2024年12月期下期の出荷分は今期中に受注できると考えています。会社側は、EUV露光装置とDUV露光装置の足元の需要は、昨年に比べて減少したものの(そのため今1Q受注高が急減したと思われる)、年間で見れば依然としてASMLの生産能力を上回っていると考えています。
このため、EUV、DUVともに受注高は今2Q以降緩やかに回復し、来期になれば本格的に増勢に転換すると思われます。
グラフ8 ASMLホールディングの新規受注高
グラフ9 ASMLホールディングの期末受注残高
4.会社側は2023年12月期通期見通しを維持。楽天証券も通期予想を維持する。
今2Qの会社側ガイダンスは、売上高65億~70億ユーロ、売上総利益率50~51%、研究開発費9.90億ユーロ、研究開発費を除く販管費2.75億ユーロです。ここからガイダンス平均値を計算すると、売上高67.50億ユーロ(前年比24.3%増)、営業利益21.45億ユーロ(同29.8%増)となります。
また、会社側は2023年12月期通期の増収率を前回同様25%以上とし、売上総利益率も2022年12月期から緩やかに改善するとしています。
今1Qは受注高は急減しましたが、3月末受注残高は389億ユーロあり、これは約2年分のシステム売上高(露光装置本体売上高)に相当します。会社側はこの受注残を消化し、製品を顧客に納入することを優先しています。
このため、楽天証券では前回の2023年12月期、2024年12月期業績予想を今回も維持します。EUV露光装置の出荷台数予想と販売台数予想も前回予想を維持します(グラフ10)。
即ち、2023年12月期は売上高265億ユーロ(同25.2%増)、営業利益83億ユーロ(同27.7%増)、2024年12月期は売上高330億ユーロ(同24.5%増)、営業利益110億ユーロ(同32.5%増)と予想します。
グラフ10 ASMLのEUV露光装置:販売、出荷台数
表8 ASMLホールディング:機種別サービス別売上高
5.今後6~12カ月間の目標株価は、前回の850ドルを維持する
ASMLホールディングの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の850ドルを維持します。
ASMLホールディングがEUV露光装置の市場を独占し、DUV露光装置でも過半数のシェアを持つこと、長期的に見てEUV露光装置、DUV露光装置の両方の市場が拡大し、ASMLホールディングの高成長が続くであろうことを評価しました。このため、2024年12月期の楽天証券予想EPS24.65ドル(ASMLはオランダ籍の会社なので、決算はユーロベースですが、NASDAQにも上場しているため、ドルベースのEPSで評価しました)に想定PER30~35倍を当てはめました。
引き続き、中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)、ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)