金融危機でも上昇した理由

 前回3月はアノマリー的に弱く「FOMCでの利上げ幅次第で、25bpなら横ばい、50bpなら下がりそうだが、下値のメドは2万1,000ドル台といったところ」と申し上げた。実際には利上げは25bpとなったが、2万ドルで下げ止まり、そこから大きく上昇した。

 何があったのか? それはもちろん、金融不安だが、基本的に金融不安による株安はBTCの売り材料となる。今回は米欧当局の素早い対応により、おおむね収束に向かっており、下がった分を取り戻すならわかるが、年初来高値を更新、3万ドルをうかがう勢いだ。なぜリスクオフによりBTCが売られてもおかしくない金融不安で買われたのか?

ドットチャートで2023年末FF予想(中間値)とFF金利との乖離(かいり)

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

利上げ停止観測

 理由は金融危機の影響でFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げをできなくなるとの見通しが強まったことだ。実際、FRBもドットチャートで2023年末の政策金利予想の中間値を据え置いており、あと1回の利上げしか想定していない。

 これは金融引き締めサイクルが5月で終了する可能性を示唆しており、2021年11月から続くBTCの下降トレンドが終焉(しゅうえん)を迎えた可能性を高める。これがBTC相場の下支えとなっていることは先月申し上げたが、それが確信に近づいた格好だ。

2023年末FF先物金利とBTC/USD

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

利下げ期待

 この件に関して、一つ注意すべきポイントは、市場はFRBの言うことを信じなくなっていることだ。FOMC後の記者会見でパウエル議長は年内利下げを想定していないと明言、BTCはいったん売られた。

 しかし今年末のFF先物金利は一時4%を割り込みFRBの想定(5.1%)より1%以上低かった。すなわち、市場はこの金融危機によりFRBは利下げに踏み切らざるを得ないと見ているのだろう。

 なお、金融危機の影響とFRBが利下げに踏み切らざるを得なくなる可能性については別稿で詳しく解説するが、要は景気が悪くなることに加え、金融システムを守るために、FRBは近いうちに利下げすると予想して、BTCは買われている。

米当局の締め付け

 もう一つBTC相場を占う上でSECなど規制動向にも注意が必要だ。SECは無登録での証券販売でTRONの創始者ジャスティン・サン氏らを訴追、ステーキングを証券契約とみなしコインベースに訴追予告を出した。ステーブルコインBinance USDの発行を停止させたことも記憶に新しい。

 またNY州司法当局はセイシェルに本社を置くグローバルな交換所KuCoinを無登録での暗号資産販売で提訴、CFTCはグローバルな交換所最大手で本社の所在地を公表していないBinanceを無登録での暗号資産デリバティブ営業などで提訴している。

 FTXの破綻を受けて、暗号資産業界、特にカリブ海などに本社を置くことで各国の規制を受けないまま海外から暗号資産サービスを提供するいわゆるグローバルな交換所に対する締め付けが厳しくなっている。5月のG7(主要7カ国)サミットの首脳宣言にも暗号資産業界規制が盛り込まれる方向と報道された。

 Binanceによる米国内での無登録証券販売で損害を受けたとして10億ドルの集団訴訟も提起されている。規制の整備は機関投資家の参入を促すので長い目で見ればプラスと考えるが、足元では市場の混乱を招きかねない。

BTC・ETH・XRPの価格推移

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

ETHとXRP

 特にETHについては上海アップデートが4月13日ごろに予定されている。これは昨年9月のマージにより始まったステーキングでロックアップされたETHの引き出しが可能となるもので、売り圧力になるのではないかと懸念されている。

 またETHそのものが米国内で証券とみなされてしまい、全米の交換所での取り扱いが廃止された場合の影響も懸念される。そうなれば米国のETH保有者からBTCや法定通貨に換える動きが殺到しかねず、今後の行方が懸念される。

 一方でXRPは大きく上昇した。SECとの裁判が早晩結審するとの観測が浮上、XRPは証券に該当しないとの結果が出るとの期待感からじりじりと上昇している。