ジャック・マー氏とアリババの前途

 久しぶりの帰国で、マー氏が公の場でアピールしたのは、教育の現場に寄り添う自身の姿でした。私自身、中国当局のアリババ社、マー氏、大手IT企業への風当たりが強くなってきたころから、マー氏は表舞台からは基本的に引退し、アリババの経営とも距離を置きつつ、次なる標的として教育をやるのではないかと随所で指摘しました。

 マー氏は近年「自分はこれからマー先生になるんだ」という発言を複数の場でしているのを私も把握しています。マー氏は英語も堪能でスピーチも抜群にうまい。何より、何も持たなかった状態からアリババを創業し、同社を育て、自らも大金持ちになり、世界中からその一挙手一投足が注目される存在にまで成り上がったわけですから、幼稚園、小中高校生らを前に語ることには事欠かないでしょう。「マー先生」は根本的に教育が大好きだという情報も各方面から入ってきています。

 アリババ・グループとしてこのタイミングで発表した過去最大の組織変革は、特にアント・グループ上場延期後、同グループが中国人民銀行や中国証券監督管理委員会などの指導を受けながら、時間をかけて取り組んできた一つの結果だといえます。マー氏も当然その一部始終に関与しており、全てのプロセスを知った上で帰国したという流れです。

 タイミングという観点からいえば、3月の全人代を経て、新政府が発足、始動したのが一つの契機になったとも言えます。これから、マー氏は自らが創業したアリババ・グループ、および六つに分割された各事業の成り行きを見守っていくことでしょう。大きな方向性や発展の大勢に関しては、CEOのチャン氏と密に話をしていくにせよ、現場における細かい事象については口出ししないでしょう。あくまでも、見守っていくというスタンスです。

 最後に、マー氏やアリババ・グループの今後という意味で、私が注目しているポイントを3点書き留めておきます。本連載でも適宜アップデートしていくつもりです。

(1)「マー先生」が教育を中心に、公の場でどんなパフォーマンスを見せるか
(2)アリババ・グループとして国家戦略である「共同富裕」にどう関与していくか
(3)アント・グループがいつどのような形で再上場するか