※この記事は2022年6月24日に掲載されたものです。

改訂版の学習指導要領で変わった「家庭科の金融教育」とは?

 2022年4月から高等学校で金融教育が必修になったと話題になっています。家庭科の授業の一環として、家計の構造や経済全体の仕組み、カード社会の利便性や問題点、多重債務問題の原因や実情の理解をすすめる授業が計画立てられています。

 もちろん家庭科の授業で学ぶことは金融に関することだけではありませんが、成人年齢が18歳に引き下げられたこともあり、高校生にも金融知識を伝えることが必要な状況になっています。

 ただしアドバイザーの立場として、はたして高校生のうちに長期分散積立投資やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)・iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の話題が必要なのか? という疑問がありました。

 ここ数年で将来に向けての資産形成の話題が増え、メディアでは投資の知識を早いうちに身につけることが今後必要だという論調も多く見かけました。しかし、株式のようなハイリスク・ハイリターンの投資は、誤って理解してしまい投機のような運用ばかりに目がいってしまう懸念もあります。

 現役で働き盛りの20代30代に必要な金融知識と、老後を見据えた50代60代の金融知識が違うように、高校生向けに求められている金融知識は違うことを理解しておく必要があります。

現役アドバイザーの金融教育の授業レポート

 金融教育として求められることは、自分の収入や収支を考えて貯蓄するための「家計管理」や将来のお金の計画を考える「ライフプランニング」、お金を「使う」こと、万が一のリスクに「備える」こと、お金を「貯めて」「増やす」こと、お金を「借りる」こと、お金の関係する「金融トラブル」を学ぶことです。

 これは社会人でも有用な知識です。この内容は金融庁が令和4年3月17日に高等学校向けに発表した「金融経済教育教材」でうまくまとめられており、私も高校生へ授業をする際に使用させていただきました(パワーポイント版もあるので、授業の進行やカリキュラムに柔軟に対応することが可能です)。

高校生向けの金融庁の資料はこちらから>>

 契約関係やそれにともなう悪質商法などは中学生のうちに学ぶ範囲ですが、高校生ではより実生活に関することや経済全体からの視点などを勉強するようです。

 社会人とは違い、中高生のうちは家庭環境の違いによって、お金の話題が情緒教育上よくないケースもあることを想定されている点は教育ならではの視点だと感じました。

 今回私は、新課程教科書(家庭総合)で「第9章〜経済生活を営む〜(5)家計をマネジメントする」の家計資産のマネジメントについて主に授業を行いました。具体的には、「ライフステージと家計」「日々の収支管理と生涯を見通した備え」「家計資産の形成」「経済的なリスクへの備え」などです。

 上記のことを踏まえて、事前に金融庁が公表した「高校生向け金融経済指導教材」から該当箇所の資料を選別しましたが、丁寧に説明しようとすると54ページもの内容になってしまいました。

 およそ40分の授業では一つひとつを丁寧に説明することはできませんでしたが、気になった箇所を後でじっくり見ることができるように、あえて除外せず資料として配布し、授業中ではポイントを絞って説明しました。

 普段の、社会人向け講座であれば、給与を受け取って生活をしている人がほとんどなので身近な話として腑に落ちやすい内容であっても、今回は、高校生向けの授業であることを意識し、まだ未成年かつ就労経験もない子たちが聞き手だったことを配慮して話をするようにしました。

 特に心がけた点として、高校生がイメージしやすいようにたとえ話をはさみつつ説明をしたり、誰かに任せるのではなく自分自身で判断できるようになることの大切さ、若年層に多い金融トラブルの事例に巻き込まれないための心構えを伝えました。

 社会人ではあたりまえのようなことでも、まだ経験も知識もない未成年では伝えるべき内容も違いますし、返ってくる反応も成人とは異なります。普段、20〜70代まで幅広い世代へ資産アドバイスをしてきた私にとっても、まっさらな「高校生」に伝わるように意識した授業は、新鮮な体験でした。