現役アドバイザーが授業をしてみたリアルな感想とは

 では、私が実際に都内の高等学校で授業をして感じたことをお伝えします。

金融教育の授業をして思うこと1:世間で話題になる金融教育と実際の授業は違う

 まず最初にお伝えしたいことは、世間で話題となっているような資産形成や株式投資を中心とした授業は金融教育のごく一部を強調して取り上げているということです。実際の授業では、基本的な金融知識を知ることで身近なお金や経済を知ることや詐欺などに巻き込まれないように教養を身につけることです。

 新しい家庭科の教科書を見ても、資産運用に触れているページはほんの1ページ程度ですし、そもそも高校生へ重視されている箇所は「家計管理」や「ライフプランニング」のような収入や支出の把握や貯蓄するためのマネープランの考え方です。

 資産形成の前提として必要なことは毎月貯蓄可能な収支の家計管理ができることです。そのために必要な金融知識を、「思春期の中高生」への情緒に配慮した内容で授業を進めています。未成年である学生への授業は、社会人向けの金融セミナーとは違う配慮のもとで行われることが求められています。

金融教育の授業をして思うこと2:授業の時間割と比較して教える範囲が広すぎる

 高校生の授業は主要5科目が中心で、どうしても家庭科に割かれる時間割が少なくなります。家庭科には「基礎」と「総合」のどちらかが高校によって選択されていますが、授業の時間割は週1〜2コマ程度です。

 限られた時間の中で幅広い内容を伝える必要がありますが、金融教育に割ける時間は多くありません。実際に私が授業したのは各クラス1時限ずつで約40分です。もちろんその時間とは別に家計のシミュレーションを作成するなども授業で行うようですが、この短時間で理解を深めるのは大人でも困難です。

 短い時間の中で単に金融知識だけを伝えても、すぐに実生活に使えるものでなければ忘れてしまいがちです。だからこそ、単なる知識ではなく、どんな場面で有効活用できるか、またはどんな知識が役に立つのかを調べようとする行動力や調べる方法なども伝えることが大切だと思います。

金融教育の授業をして思うこと3:家庭科の先生への負担は想像以上

 金融教育の授業内容はFP(ファイナンシャル・プランナー)の基礎的な知識です。逆にいえば、FPとしての最低限の知識レベルが求められるともいえます。さらにその内容を吟味して、実生活に役立てる方法まで伝えるとなると、実務経験がなければ難しいでしょう。

 家庭科の先生が常勤ではなく非常勤の高校もありますし、いくら家庭科の先生であっても別業種の専門分野まで手を広げるということは現実的ではないでしょう。そのため、私のような外部講師が代わりに金融教育の授業を行うことも珍しくないようです。

 特に今年になってから、金融庁ばかりではなく各金融機関やFP、私たちIFAなどが外部講師として活発に活動するようになっています。

 これまで金融教育を受けてこなかった日本人のほとんどが金融知識を学ぶ機会がないまま社会人となっています。やっとここ数年で、資産形成を目的に実生活で使える金融知識が急速に普及してきていますが、まだ当たり前の知識にはなっていません。

 だからこそ金融業界全体で、家庭科の先生たちのニーズにあわせて、負担を減らすための行動が必要となってくるでしょう。