毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)

1.AIにはどんな種類があるのか

 今回は、特集としてAI(人工知能)を取り上げます。

 AI(Artificial Intelligence、人工知能)は、人間の知的作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムのことです。AIのブームは、1950~1960年代の第1次ブーム、1980年代の第2次ブーム、2000年前後から今日まで続いている第3次ブームがありますが、この3つのブームを経て、ようやく実用段階に到達しました。

 AIの技術進歩は急速であり、AIはすでに人間生活の至る所に入り込んでいます。例を挙げると、次のごとくです。

インターネット広告:過去のネット広告のクリック履歴や検索履歴からその人の関心事を推論し最適な広告を送信する。

検索サービス:これも過去の検索履歴からその人のニーズに合致しそうな検索結果を並べる。

消費者向け企業の顧客相談窓口:大手ネット通販会社、通信会社、クレジットカード会社など大規模消費者向け企業の顧客相談窓口。テキストあるいは音声で顧客からの問い合わせに応答し、複雑でAIが答えきれない問題は人間のコールセンター要員につなぐ。

ネット通販会社、動画配信会社の顧客向けレコメンデーションサービス:過去の購入履歴、配信履歴から顧客の購入意欲を喚起しそうな商品、サービス、コンテンツを提案する。

自動運転:人間の運転をサポートしたり、完全自動運転を行う(完全自動運転はまだ実現していない)。

監視と警報システム:工場内の機械や労働者を監視し危険を察知した場合に警戒信号を出す。あるいは、通信ネットワーク、鉄道、交通ネットワークの監視、警報システムなど。

音声アシスタント:アップルのSiri、アマゾンのAlexaのようなユーザーの問いかけに対して返答するAI。

 などです。今では、人々が何気なく使っているサービスに、程度の差はありますが、何らかのAIが使われていることが多くなっています。

 AIには2種類あります。「特化型AI」は、「言語」「音声」「画像」「制御」「推測」など、得意分野があります。得意分野以外では思考、学習はできません。今動いているAIは全てこの特化型AIです。

 これに対して、「汎用型AI」は様々な思考、検討ができます。初めてのことや日常活動についての思考、検討も可能です。ただし、汎用型AIは今のところ研究の段階であり実用化されていません。

2.AI開発企業

 下は、アメリカでAIも開発を行っている会社です(主要なもののみです)。自社開発、AI開発会社の買収、AI開発会社との提携などを含めると、数多くの会社がAI開発を行い、自社や顧客が使っています。

大規模AIシステム

アマゾン・ドット・コム
アルファベット
マイクロソフト
メタ・プラットフォームズ
ネットフリックス
アップル

自動運転

ウェイモ(アルファベット傘下のグーグル子会社)
モービルアイ
クルーズ(ゼネラル・モーターズ子会社)
フォード
テスラ
Nuro

各種AI開発、ビッグデータ分析

IBM(会話型AIサービス、AI開発等)
The Trade Desk(デジタル広告配信プラットフォーム)
シノプシス(ロジック半導体設計システム、設計用AI)
ケイデンス・デザイン・システムズ(ロジック半導体設計システム、設計用AI)
シースリー・エーアイ(C3.ai)(エンタープライズAI(各種業務用AI))
ユニティ(ゲーム開発用ツール)
パランティア・テクノロジーズ(ビッグデータ分析)
ビッグベアAI(ビッグデータ分析、AIを活用した分析)
サウンドハウンドAI(音声AIサービス)
ベリトーン(エンタープライズAI)
など

ジェネレーティブAI

マイクロソフト(OpenAI、テキスト生成AI、対話型AI)
アルファベット(テキスト生成AI、対話型AI)
メタ・プラットフォームズ(学術分野に特化した対話型AI)
アドビ(コンテンツ作成ツール、画像生成AI)
Shutterstock(画像生成AI)

3.大規模言語モデルとジェネレーティブAI(生成AI)

1)大規模言語モデルが顧客サービスを変える

 AIをシステムの規模から見ると、民間では大手クラウドサービス会社(アマゾン・ドット・コムのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフトのAzure、アルファベットのグーグル・クラウドなど)が運営するハイパースケール・データセンター(超大型データセンター)で動かしている「大規模言語モデル(Large Language Model)」が代表例になります。

「大規模言語モデル」とは、大規模なテキストデータを事前に学習し、さまざまな言語処理タスク(文章生成、穴埋め問題、機械翻訳、質問応答など)を解くことができる言語モデルです。例えば、大手クラウドサービスや大手ネット通販、消費者向け製品・サービスの大手が進めているのは、大規模言語モデルを使った顧客サービスです。同時に数十万人の顧客が数十か国語でお客様相談窓口に電話してきたときに、かなり高いレベルの質問に対する回答、応対までAIがスムーズに行うことができるようなシステムです。もちろん、このようなAIの利用、活用形態が完成形になっているわけではなく、まだ発展途上の段階ですが、完成すれば、対顧客サービスが向上するとともに、競争相手に対して大きな優位性になるため、熱心に構築が進められています。

2)「ChatGPT」とは何者か

 このように、様々な業種、特に消費者向けサービスの大手企業がAIを使った対顧客システムを熱心に構築している流れの中で、「ChatGPT」の大ブームが到来したのです。例えば大規模言語モデルによるお客様相談窓口にChatGPTをどう組み合わせればよいのかが大きなテーマになっています。あるいは、日常業務にChatGPTをどう取り入れるかということが課題になっています。

「ChatGPT」は、アメリカのAI研究機関「OpenAI」によって開発された「ジェネレーティブAI」あるいは対話型AIです。ジェネレーティブAIとは、画像、文章、音声、プログラムコードなど、様々なコンテンツを生成することができるAIです。大量のデータを学習モデルが学習することによって、人間が作成するような絵や文章を生成することができます。従来のAIは、大量のデータから特徴を学んで予測するものです。一方、ジェネレーティブAIは、データから学習して、新しいものを生み出すことができるのです。

 OpenAIは2015年12月にアメリカでイーロン・マスク氏らによって設立されました(イーロン・マスク氏らは10億ドルを提供しました)。2019年にはマイクロソフトなどが10億ドルを投資しました。マイクロソフトは2021年にも追加投資を行っています。

 このOpenAIが、「Generative Pretrained Transformer 3(GPT-3)」(2020年5月に紹介された)を開発しましたが、これがChatGPTのもとになっています。GPT-3は2020年9月にマイクロソフトが独占ライセンスを取得しており、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」上で使うことができます。

 そして、2022年11月に「ChatGPT」が公開されました。無料公開であり、インターフェースが使いやすく、幅広い分野の質問に詳しい回答を生成できることから注目されています。ただし、一見すると自然に見えるが、事実と異なる回答を生成することもあることが指摘されています。

 このChatGPTがジェネレーティブAIを含むAIの大ブームを巻き起こしています。

3)マイクロソフトと他社との関係

 マイクロソフトはChatGPTを独占してはいませんが、ChatGPTのもとになっているGPT-3の独占ライセンスをもっているため、ChatGPTのプログラムの深い部分を改良することはできます。マイクロソフトは2019年、2021年にOpenAIに対する投資を行い、パートナーシップを締結し今日までにそれを強化してきました。さらに、今後数年間で数十億ドルをOpenAIに投資する計画と報じられています。

 そして、マイクロソフトは自社製品にChatGPTベースのAI機能を搭載しユーザーの利便性を高める方針です。まず、Microsoft365(旧Office365。オフィスソフトの年額定額制サブスクリプションサービス)にChatGPTベースのAI機能を組み込むためのソフト、「Microsoft365 Copilot」を発表しました。数カ月以内にWord、Excel、PowerPoint、Outlook、Teamsなどすべてのソフト製品群に「Microsoft365 Copilot」が搭載される予定です。利用料金やライセンス形態などは今後発表になります。例えば、メールや資料をAIと対話しながら作成することができるようになります。「Copilot(副操縦士)」というコンセプトは、マイクロソフトユーザーがマイクロソフト製品を使って効率よく仕事をするためにAIが助けるという考え方です。

 また、マイクロソフトの検索システム「Bing」にGPT-3の次の世代のジェネレーティブAIであるGPT-4を実装しました。

 マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」でもChatGPTを使えるようになりました。

 このような動きに対して、マイクロソフトの競争相手が反応しています。

 まず、アルファベット傘下のグーグル。人々が知識やアドバイスを得たいときにChatGPTのような対話型AIを主に使ってグーグル検索を行わなくなったなら、グーグルの主力事業である広告事業の売り上げが減少する懸念があります。このため、グーグルも対話型AI「Bard」を発表し、グーグル・クラウドにおいてジェネレーティブAIを開発者、企業、政府に提供し始めました。ただし、「Bard」の評判は今のところあまりよくなく、マイクロソフトに先手を取られた感は否めません。

 メタ・プラットフォームズも、学術分野に限って独自の対話型AIを公開しました。マイクロソフトとクラウドサービスで競合するアマゾンはどう対応するのか不明です。

 マイクロソフトのソフトウェア製品とサービスはAIとの相性が良いと思われます。そのため、ChatGPTブームによってマイクロソフトが得るものは多いと思われます。一方で、前述したように、打つ手を間違えればアルファベットが失うものは多いと思われます。アマゾンも今後どう対応するのか注目されます。また、メタ・プラットフォームズにとっては選択肢は色々とあると思われます。マイクロソフトと競合する事業が少ないため、自社開発で対話型AIを開発してもよいし、マイクロソフトと提携する選択肢もあると思われます。

 このまま進めば、マイクロソフトが世界最大最強のAI企業になる可能性があります。他社がマイクロソフトに対してどう対抗するのか、今後の注目点です。

4.大規模AIシステムを動かすには高性能GPUを搭載した高性能サーバーが不可欠

 大規模AIシステムを動かすには、高性能半導体が必要です。2000年代後半から2010年代にかけて、GPUが培ってきた高速の高精細描画能力、高速計算能力がAIの駆動に適しているのではないかと学術の世界で指摘されるようになりました。実際にGPUを使ったディープラーニングによる画像認識では正答率が大変良かったことから、これ以降、AIシステムの駆動にはCPUではなく、GPUを使うことが主流になりました。

 このことが、当時パソコン用GPUのトップ企業だったエヌビディアが、大きく飛躍する起点となったのです。現在では、データセンター用GPUではエヌビディアは90%以上の市場シェアを持っています。今の主流は、昨年後半に発売されたエヌビディアのデータセンター用新型GPU「H100」です。前世代の「A100」を大きく上回る能力を持っており、価格も「A100」の最小セットが210万円(税抜き)なのに対し、「H100」は431.3万円と高く、売上高が増えればエヌビディアの業績を大きく押し上げると思われます。

 また、GPUをメモリやその他の半導体、周辺機器とともに格納するコンピュータであるサーバーも、AIシステムが大規模化しデータセンターが大規模化するにしたがって、GPUとともに高性能化、高額化しています。スーパー・マイクロ・コンピューターのようなサーバーメーカーにもビジネスチャンス、収益機会が大きくなると思われます。

5.注目企業

マイクロソフト

1)2023年6月期2Qは2.0%増収、8.3%営業減益

 マイクロソフトの2023年6月期2Q(2022年10-12月期、以下今2Q)は、売上高527.47億ドル(前年比2.0%増)、営業利益203.99億ドル(同8.3%減)となりました。今1Qは景気後退の影響を受け業績は鈍化しつつも増益は維持していましたが、今2Qは企業のIT投資削減、今3Qに実施する1万人の人員削減の費用12億ドルを計上したこと、1年前に比べてドル高の影響を受けたことから営業減益になりました(人員削減の費用は以下の各セグメントにかかっています)。

 今2Qをセグメント別に見ると、プロダクティビティ&ビジネスプロセス(法人向け事業)は売上高170.02億ドル(同6.7%増)、営業利益81.75億ドル(同6.3%増)となりました。増収増益は維持しましたが、景気後退と企業のIT投資減速の影響で業績鈍化が進みました。

 インテリジェントクラウドは、売上高215.08億ドル(同17.4%増)、営業利益89.04億ドル(同8.6%増)となりました。クラウドサービスのAzureの売上高は同31%増と好調でしたが、新規案件の獲得が会社予想を下回りました。ドル高の影響もあり、営業利益率が悪化し、営業増益率は一桁に止まりました。

 パーソナルコンピューティング他(個人向け事業、ゲーム事業、WindowsOSのOEM販売など)は、売上高142.37億ドル(同18.5%減)、営業利益33.20億ドル(同47.8%減)と業績が大きく悪化しました。パソコン販売の減少に伴い、WindowsOEMが同39%減となるなど、振るわない結果となりました。

表1 マイクロソフトの業績

株価 277.66ドル(2023年3月23日)
時価総額 2,068,845百万ドル(2023年3月23日)
発行済株数 7,473百万株(完全希薄化後)
発行済株数 7,451百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。

表2 マイクロソフト:セグメント別業績(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成
注:会社予想は予想レンジの平均値。

2)ChatGPTの全社業績へのプラス効果がいつ出てくるのかが今後の焦点

 今4Qの会社側ガイダンスは、売上高505~515億ドル、売上原価156.5~158.5億ドル、販管費147~148億ドル、その他収益約2億ドル、実効税率19~20%です。ここからレンジ平均値を計算すると、売上高510億ドル(前年比3.3%増)、営業利益205億ドル(同0.7%増)となります。レンジ平均値では営業利益は横ばいであり、引き続き停滞感のある業績となりそうです。

 今後の焦点は、ChatGPTが使えるAzure、「Microsoft365 Copilot」を搭載したオフィス製品とGPT-4を搭載したBingの収益寄与が、いつから、どの程度期待できるのかです。今の大手企業のAIの利用、活用の熱心さを考えると、2024年6月期には成果が出る可能性があると思われます。

 このことを考慮して、楽天証券では2023年6月期を売上高2,040億ドル(同2.9%減)、営業利益825億ドル(同1.1%減)、2024年6月期を売上高2,300億ドル(同12.7%増)、営業利益1,000億ドル(同21.2%増)と予想します(2023年6月期、2024年6月期ともに前回予想よりも下方修正となります)。

表3 マイクロソフト:セグメント別業績(通期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

3)今後6~12カ月間の目標株価を前回と同じ340ドルとする

 マイクロソフトの今後6~12カ月間の目標株価を前回と同じ340ドルとします。楽天証券の2024年6月期予想EPS(1株当たり利益)10.84ドルに、AIブームがマイクロソフトの各事業を拡大させることを期待して想定PER(株価収益率)30~35倍を当てはめました。

 中長期で投資妙味を感じます。