※写真:Arnd Wiegmann/Getty Images News(ゲッティイメージズ提供)

 米国でシリコンバレー銀行(総資産全米16位)、シグネチャー銀行(同29位)が破綻しました。また、欧州ではスイスの金融機関最大手UBSが同2位のクレディ・スイス・グループの買収を発表するなど、海外の銀行にも不安が拡がっています。

 一部には、リーマンショック後のような金融危機の可能性を心配する向きもあります。

 今回は、これらの銀行のケースを念頭に、今日の銀行の問題を考えるポイントを幾つか整理してみたいと思います。

 事態はまさに現在進行形で流動的であり、問題の幾つかについてはまだ定説がありません。以下は、現時点での筆者個人の意見であることを強調するために、架空のインタビューに筆者が答える想定の会話調でお届けします。

 五つのカテゴリーのQ&Aを用意しました。

(1)シリコンバレー銀行(SVB)は何がまずかったのか?

【質問】
「シリコンバレー銀行(以下「SVB」)は何がまずくて破綻したのでしょうか。経営内容が特殊で他の米銀とは異なっているので、他行に連鎖的に波及する問題ではないと言う向きもありますが、そう考えていいものなのでしょうか?」

【回答】
「SVBはIT企業との取引が多いことで知られる銀行で、他の銀行とちがって経営が不安定化しやすい要素を幾つか持っていました。

 SVBは円換算で約28兆円程度の総資産を持つ、必ずしも小さくない銀行でした。日本の銀行と比べると、地銀大手の横浜銀行(単体)の総資産が15兆円台(2021年度末)なので、その倍近くの規模があります。

 しかし、同行はその名前から想像できるように、ベンチャー企業をはじめとしたIT業種の新興企業との取引を預金と融資と両面で多く抱えていました。

 融資が特定の業種に偏ることは一般論として銀行経営にとってリスク要因です。ただ、今のところ融資先の大きな破綻などが直接の引き鉄になってSVBの経営が傾いたわけではありません。

 SVBの場合、融資以前に取引先から集中した預金を持て余したことが破綻の遠因になったようです。銀行経営で、預金額に対する融資額の比率を預貸率と呼びますが、この銀行の場合43%程度でした。貸し付けに回らない多額の資金を運用する必要があり、具体的にはその多くを債券に投資していました。

 ところが、昨年来のFRB(米国連邦準備制度理事会)による急激な利上げに伴う債券利回りの上昇によって、運用に大きな含み損を抱えました。ご承知のように、債券では利回りの上昇とは、債券価格の下落を意味します。

 但し、債券運用のある銀行の経営が、金利の上昇で必ず傾くかというとそういう訳でないことは注意しておきたいと思います。銀行の主な資金源である預金は預金者によって短期で出し入れされる短期の資金なのに対して、通常は長期の債券の方が利回りが高い。ここで欲張って、長期の債券での運用を増やしすぎると、期間のミスマッチが起こって、金利の上昇でバランスシートが一気に傾くことが起こり得ます。こうしたリスクを管理することをALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)と称しますが、これは銀行経営の常識です。

 つまり、SVBには銀行として本来当然なはずのリスク管理が十分できていなかった可能性があります。

 リスク管理がしっかりしていれば、金利の上昇は銀行経営にとって、融資の利回りが上昇して資金運用の利ざやが拡大することで、むしろプラス要因に働きます。金利が上昇して銀行株が買われるのは、そうした理由からです。

 また、SVBの預金構造には、同行にとってもう一つ不利な要因がありました。それは、取引先が法人顧客中心で一口あたりの預金額が大きく、また預金者の数が資金量に比べて少ないため、同行の経営に不安を持った法人預金者の預金引き出しが集中すると預金の流出スピードが速かったことです。

 相次いで破綻したシグネチャー銀行についても、取引先に暗号資産関連の業者が多く、SVBと似た経営構造を持っていたことが指摘されています。

 両行は、米銀の中でも些か特殊な経営構造を持っていたということは言えると思います。つまり、同じ理由での連鎖的破綻は起こりにくいと考えられます。

 また、リーマンショック後の金融危機への反省を切っ掛けに、米国をはじめとする世界の大手銀行は、自己資本比率を高く保つことや、高いレバレッジ倍率を用いた投機的な取引を控えることなどが規制に盛り込まれて、かつてよりも財務体質が大幅に強化されています。」

(2)クレディスイス(CS)の経営は何が問題だったのか?

【質問】 
「クレディスイス銀行(以下「CS」)の経営不安は、SVB破綻の影響ということなのでしょうか。

 また、同行の名前は近年何度かニュースで目にした記憶があります。この銀行に特有の経営上の問題はなかったのでしょうか?」

【回答】
「CSは、近年不祥事が複数起こっていて、SVBの問題以前から、経営に問題のある銀行でした。欧州でも中央銀行が利上げに動いていることなど、SVBの破綻と似た背景もありますし、心理的な影響も少しはあるでしょうが、もともとあった経営不安にSVBの問題もあってスポットライトが当たった、と考えるのが妥当でしょう。

 もともとCSは出自が秘密主義と厳格な口座管理で知られるスイスの伝統あるプライベートバンクの一つでした。富裕層向けのプライベートバンク・ビジネスを世界で展開していて、それなりに大きな存在感を持っています。CSを買収する企業にとってこのビジネスと顧客は魅力的でしょう。また欧州の銀行経営の特徴であるユニバーサル・バンク(銀行業と共に証券業も一緒に行う銀行経営)の代表格でもありました。本来は堅実経営の大銀行のはずでした。

 しかし、1990年代に欧州の銀行の経営が大いに米国化した時に、おそらくその影響を最も強く受けた銀行がCSでした。欧州銀行の米銀化とは、具体的には大規模なトレーディングや、株式の引き受けM&Aの仲介などの業務に自己の資本を積極的に投入して関わる「投資銀行」業務への傾斜と、行内経営上は収益を上げた個人が極端に大きな報酬を得る仕組みの導入でした。

 率直に言うと、トレーダーやM&Aのディールメーカーのような個人が、銀行の資本をリスクに晒しながら大きなリスクを取る取引を行って、大きく稼いで大きな報酬を取る「銀行員個人のビジネスモデル」に制御が効かなくなったと考えられます。このビジネスモデルは、リーマンショックをもたらした根本原因の一つだったともいいますが、未だ根絶できていません。CSの株主は、その犠牲者です。

 ブルガリアの麻薬取引に関わるマネーロンダリング(有罪が確定)、顧客情報の漏洩問題、日本の大手証券も大きな損失を被った米国のアルケゴス・ファミリー・オフィスとの取引での巨額損失など、近年の不名誉かつ損失としても重大な事件では、CSの米銀化の悪い面が強く残っていて顕在化したと言えるでしょう。

 私見をはっきり言わせて貰うと、行内に悪い個人がたくさんいて、彼らに「銀行がカモられている状態」です。リーマンショック以前の米国の所謂投資銀行の悪いところを集中的に真似してしまいました。かつてのリーマン・ブラザーズがそうだったように、CSも金融マンの食い物にされてしまった。

 一方、米国の大手金融機関は、リーマンショックを何とか生き延びると共に、その後は、自己資本を積み増しつつ規制当局の指示に従って、言わば社内のギャンブラーの連中に簡単にカモられるような経営モデルから、少なくとも表面上は、足を洗ったように見えます。

 米国の「投資銀行」は、かつて日本の大手銀行や大手証券が、田舎者がやみくもに都会に憧れるごとく、目指しては失敗を繰り返した「憧れのビジネスモデル」でした。今にして思うと、彼らは一体何に憧れていたのでしょうか。

 話が些か脱線しましたが、CSはSVBとは違った意味で、特殊な金融機関でしたし、少なくとも早急に経営を刷新すべき金融機関でした。同行が大規模な破綻を経ずに処理されるなら、世界の金融にとってはむしろ安心材料だと言えるでしょう。

 大きな銀行なので、「安心材料」は言いすぎかも知れませんが、CSが特殊な経営体質の金融機関であったことは確かです。」