シリコンバレー銀行が破綻:FRB、TSY、FDICが銀行システム救済を発表

 シリコンバレーのスタートアップに大きな影響力を持つSVB(米シリコンバレー銀行)が10日、経営破綻した。FRB(米連邦準備制度理事会)による急ピッチな利上げのひずみがシリコンバレーの銀行の経営悪化という形で吹き出してきた。

 米金融規制当局は3月12日、シリコンバレー銀行の経営破綻を受け、全預金者の資金を保証するための措置を打ち出した。

 この救済措置を受けて、ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、ニコラス・ベロンは、「これは救済で、米国制度の設計意図や動機付けとは大きく異なる。銀行サービスを使う全ての人にコストが転嫁されることになる。銀行の預金が保護されるならばなぜ銀行が必要なのだろうか。これは中銀デジタル通貨に関する議論にもつながる可能性がある」と述べた。

「利回りが史上最低水準にあったときに長期国債やMBSを買うほど愚かだったすべての銀行は、今やFRBによって救済された。同じ過ちを犯した年金基金、保険会社、個人投資家はどうだろう。なぜ彼らは救済されないのか?」とピーター・シフは怒りをあらわにし、債券王のジェフリー・ガンドラックは、「私の理解が正しいなら、連邦準備制度は額面よりも価値が40%低い証券を担保に額面と同額の融資をするということだ。ひどい話だ」と述べた。

 この救済は、貧富の差の拡大(富の偏在)によって米国の資本主義が変容し、社会主義経済に向かっていることの証左である。既に市場は世界金融危機(リーマンショック)以降、ルールのない国家管理相場となっている。全ての預金をカバーすることは、モラルハザード(マネーハザード)を拡大させ、結局、そのツケはインフレで国民が払うことになる。

 シリコンバレー銀行の破綻は、【政治的意図によるリスク蓄積の問題の大きさ】を浮き彫りにしている。

 SVBが破綻したのは、無謀な経営によるものではなく、ケインズ主義者や金融介入主義者が望んだとおりのことを行ったからだ。

 かなりのリスクがあると思われる資産にリスクを蓄積する銀行はない。銀行がリスクを蓄積する唯一の方法は、リスクがないと認識した場合である。なぜリスクがないと思い込むのか。政府、規制当局、中央銀行、そして専門家がそう言うからだ。次は誰の番だろう?

 多くの人は、金融政策や規制によって生み出された逆インセンティブやバブル以外のすべてを非難し、問題解決のために利下げや量的緩和を要求するだろう。

 それは悪化させるだけだ。バブルの結果を、さらなるバブルで解決することはできない。

出所:(『シリコンバレー銀行は、金融規制が推奨するとおりに行動しました』 3月13日 ゼロヘッジ)

シリコンバレー銀行の破綻で、「利上げの停止」や「利下げ」の観測が浮上

 シリコンバレー銀行の破綻は、現在、スイスの金融大手クレディ・スイス・グループの経営不安に飛び火している。金融不安を受けてFRBの利上げサイクルは終わり、また次の大規模な流動性注入が始まるらしい。

 ピーターは、「政府は、シリコンバレー銀行とシグネチャーバンクの全預金を保証するという間違いを犯したため、預金者が政府の全面的なバックアップがある債務超過の銀行に資金を移動させ、支払能力のある銀行が広範囲で破綻するのを防ぐために、全銀行の預金の100%を明示的に保証することを余儀なくされる」と述べている。

「なんでもバブル」の波に乗り、政府の政策が民間企業の成長を妨げるとやゆしていた無謀なベンチャーキャピタルやハイテク企業、キャシー・ウッドなどは、今や連邦政府に救済を懇願している。2008年の金融危機以来、何一つ学んでいないということだ。

 重要なのは、シリコンバレー銀行の破綻で、「利上げの停止」や「利下げ」の観測が浮上していることである。

 ヌリエル・ルービニは「利下げ」について、「ハードランディングは、私の基本方針であった。そして今、それは明らかに避けられないものとなっている。経済の安定とインフレ対策には、政策金利の大幅な引き上げが必要だ。しかし今、金融安定化のリスクは政策金利の引き下げを必要としている。だから、私たちは危機を迎えることになる」と、昨日述べた。

「利下げ」が株価の下落を促すというロジックは一般人には理解されにくい。だが、筆者がこれまで述べているように、スーパーバブルの後の「利下げ」は株価急落のトリガーとなっている。

ナスダック100と米2年国債金利の推移

(スーパーバブルの後の利下げは株価急落のトリガー)
出所:石原順

 したがって、ここからの相場の焦点は「利下げ」となる。ペンシルベニア大学ウォートン校のジェレミー・シーゲル教授は、「FRBが利上げ幅を0.25%と現状のペースにとどめると予想し、利下げが想定より早く6月までに実施される可能性がある」とみている。

 現在のFFレート(米政策金利)の進路に関する市場の予想は以下のとおりである。

  1. 2023年3月22日:25bps引き上げ、4.75~5.00%へ
  2. 利上げ停止
  3. 2023年7月から金利引き下げを開始し、2023年末に4%、2024年末に3%のファンドファンドレートを設定する。

利上げ停止と利下げ観測

出所:CREATIVE PLANNING

 カール・アイカーンは、「システムは崩壊しており、今日の経済には絶対に大きな問題がある。インフレは経済にとって最悪の事態であり、人々はそれを過小評価していると思う。すべての覇権はインフレによって破壊されてきた」と述べた。

 ジェームズ・リッカーズの言うように、「実物資産と勤労だけが価値の蓄えになる。株式も債券もすべての会社が潰れてしまえば、無価値になる。債務者は破産し、残された名目的価値はインフレですっかり無くなってしまう」のである。

 1987年のブラックマンデー以降のグリーンスパンのモラルハザード政策(いわゆる後始末戦略)にどっぷり浸かっているウォール街は、強欲を止めることはない。

 2008年の世界金融危機(リーマンショック)では金融機関や格付け機関の不正行為があらわになったが、リーマンショックで刑務所にいった人間は一人もいない。つまり、「やったもの勝ち」なのである。そして、バブルの後始末はいつもFRBがしてくれるというわけだ。

 FRBが市場に介入し金融市場の信用の流れを維持する政策(モラルハザード)に打って出たとき、われわれの経済に何が起こったのか、そして今日の市場が典型的なバブルとどう違うのだろうか? 現在の相場は「バブル」というよりも「国家管理相場」である。

 限界があるとすれば、中央銀行がコントロールを失ったときには壊滅的な打撃を受け、より大きな「平均への回帰」が歴史的な崩壊をもたらすことになるだろう。

実質S&P500のパフォーマンスと歴史的な金融危機

出所:リアルインベストメントアドバイス

S&P500とバブルの対称性

出所:ゼロヘッジ

 金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。2008年の暴落は事実上、ミニ暴落であった。修正は行われなかった。

 その代わり、2008年の暴落は膨大な負債によって覆い隠され、避けられない大暴落が起こったとき、その深刻さは歴史上のどの暴落をもはるかに超えるものになることが確実となったのである。

 インフレが問題になっていても、FRBがそれに対してできることは何もない。しかし、彼らは、市場を落ち着かせるために、かなりのショーを行っている。それは、タイタニック号が沈むときのオーケストラの演奏を少しだけ思い出させる。

 個⼈投資家がバブル相場につぎ込んでいいのは失ってもいいお⾦だけである。相場で一番大切なことは、大きな損をしないことだ。大きな損をすると、投資効率が死んでしまうからだ。だから、相場とは何かといわれれば、ストップロスが全てである。

 フォン・グレイアーズは、『10年の破壊に備えよ』と題したレポートの中で、以下のように述べている。

 リスクから自分の財産を守ることは、絶対に必要だ。株式、債券、不動産など、偽の不換紙幣を印刷して人工的に膨らませた従来の資産に投資している人は、今後5年以上の間に、その富が大きく崩れることになるだろう。

 世界は今、困難な時代へと向かっている。家族や友人はあなたの最も大切な財産であることを忘れず、深く大切にしてください。また、家族や友人を除けば、本、自然、音楽、スポーツなど、人生で最高のものの多くは自由に手に入る。

出所:(『10年の破壊に備えよ』 3月3日ゼロヘッジ)

 全ての帝国は儚いものであり、これが現在、米国と欧州が経験していることである。

1 過大な債務と赤字
2 通貨暴落
3 不動産、債券、株式などの資産価格の暴落
4 ハイパーインフレの最終段階、特に食料品、日用品、サービス
5 移住
6 犯罪率の高さ・法秩序の崩壊
7 モラルの退廃
8 社会不安、内戦
9 戦争

 レイ・ダリオは、シリコンバレー銀行の破綻は「炭鉱のカナリアだ」と述べ、「初期的な兆候を示しているこの動きはベンチャー界のみならず、より広い世界に波及効果を及ぼすだろう。この銀行の破綻に続いて、もっと多くの問題が顕在化する可能性が高い。縮小はサイクルが一巡するまで続く。今はターニングポイントに近づいている」と警鐘を鳴らしている。

 世界を見つめてごらん。きっとキミの信じているもの全てが壊れていく時が迫っている…。

帝国のビッグサイクル

出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)