注目ポイント(5) 「習近平一極体制」における人事

 昨年10月に開催された5年に1度の党大会において、習近平政権は3期目入りし、チャイナセブンと呼ばれる新たな中央政治局常務委員7名の顔ぶれも明らかになりました。一方、あらゆる人事が確定し、習近平第3次政権が本格的に始動するのは全人代を通じてということになります。

 具体的には、習近平氏の国家主席3選が決まります。また、党内序列2位の李強氏が李克強氏の後を継いで国務院総理に就任する見込みです。その他、政府や解放軍を含め、新政権におけるあらゆるポストが埋まっていく舞台となるのがこの全人代なのです。

 私が個人的にとても注目しているのが、それぞれ引退が予定される王岐山国家副主席、および今年1月ダボス会議で中国政府を代表して基調講演を行った劉鶴国務院副総理の後継に誰が着くか。この人事次第で、中国市場の見え方や、海外政府、市場関係者の中国経済への関与や期待値などが左右されるでしょう。

注目ポイント(6) 台湾

 昨年、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問や、それを受けての中国人民解放軍による前代未聞の軍事演習などで、台湾海峡は大いに荒れました。習近平国家主席は、米台間の軍事協力や、来年1月に総統選を迎える台湾政治、米国高官、議員の訪台などに警戒心と不満を強めてきています。

 そんな中、全人代で台湾がどう扱われるのかは注目です。具体的には、党指導部としての台湾政策に関して、例えば統一の在り方、仕方などを巡って従来よりも踏み込んだ立場が示されるかどうか。あるいは、全人代というのは議会ですから、台湾関連で新たな立法が審議されるかも注目点になるでしょう。

注目ポイント(7) 国防費の拡大

 台湾問題にも関連しますが、全人代で、特に外国メディアが焦点を当てるのが国防費とその上昇率です。2022年は前年比7.1%増の2,294億ドルでした。中国の国防予算はすでに日本の5倍以上に膨れ上がっています。日本の安全保障を考える上でも、中国の国防、より正確には、軍事政策は避けては通れない要素になります。

 昨年の7.1%増という上昇率は、経済成長率目標として設定された5.5%前後よりも高く、言い換えれば、国防予算の増加は経済成長の速度を上回っていることになります。今年はこの割合はどうなるか。コロナ禍ですり減った、限られた財源をどこに使うのかを占う上でも見ものです。

注目ポイント(8) 習近平氏の表情と仕草

 私の理解では、会議の性格や議題上、全人代という舞台で最も注目されるのは、総書記・国家主席・中央軍事委員会主席という3役でトップを担う最高指導者ではなく、政府活動報告を発表する国務院総理や全人代の委員長などです。全人代を通じて、特に党大会や中央政治局会議などに比べ、最高指導者は「脇役」に徹するのが通常です。

 とはいえ、前任者たちと比べても、習氏の政治的影響力は規格外ですから、全人代での動きにも注目です。習氏が地方自治体代表団の分科会でどんな発言をするかといった点も大事ですが、それ以上に、会議を通じて、どんな表情と仕草を見せるのか。例えば、終始リラックスした表情をするのか、特定の同僚と和気あいあいとした会話をするのかなど、ベールに包まれた中国共産党政治の内実を理解するために、習氏の動向はある意味最大の注目ポイントになるでしょう。