3月5日に全人代が開幕
3月5日、中国で毎年恒例の全国人民代表大会が開幕します。日本では「全人代」と呼ばれることが多いです。日本の国会に相当し、全国各地、各業界から選抜された全国人民代表が北京の人民大会堂に集結します。今期の代表リストはすでに発表されていて、計2,977名です。
2023年の全人代は例年と比べても見どころが格段に多いと私は考えています。本レポートで、それらを八つに絞りつつ、全人代の注目ポイントを先読みしたいと思います。
注目ポイント(1) 「フルコロナ」下で迎える全人代
過去3年の全人代はコロナ禍で行われました。2020年は、まさに湖北省武漢市から感染が拡大した真っただ中にあり、開催時期が3月から5月に延期になりました。2021、2022年は例年通り3月に開催されましたが、開催期間が従来の約10日間から約1週間に短縮されました。参加者は皆マスクを着用し、記者会見も部屋を分けて、画面越しで行われていました。
今年はどんな光景が見られるか? 会場でどれだけの参加者がマスクを着用するか? 記者たちに至近距離での取材は許されるのか? 昨年12月に「ゼロコロナ」策が解除され、中国は2023年をコロナ感染者がまん延する「フルコロナ」下で迎えました。最近ではマスク着用者も激減しており、経済活動や国民生活も正常化しているようです。これらの新常態(ニューノーマル)が全人代の会場にどう反映されるか、中国のコロナ事情を見極める上でも注目です。
注目ポイント(2) 経済成長率
2022年、上海市での2カ月以上のロックダウンをはじめ、「ゼロコロナ」策による打撃に見舞われた中国経済ですが、実質GDP(国内総生産)の成長率は3.0%増と、1年前の全人代で設定された5.5%前後という目標を大きく下回りました。
開幕日に李克強氏が国務院総理として最後の「政府活動報告」を読み上げます。そこで成長率目標が発表されますが、どんな数値が発表されるか? 私は5%あたりが一つの目安になると見ています。
注目ポイント(3) 2022年の経済情勢総括と2023年の経済政策
上記と関連しますが、目標未達成に終わった2022年の経済情勢を李克強首相が政府活動報告の中でどう反省するかも重要です。ロシア・ウクライナ戦争やコロナ禍などによる不可抗力だったという弁明なのか、あるいは中央政府の政策に何らかの過失があったことを間接的にでも認めるのか。ガバナンスの透明性、説明責任という意味でも重要だと思います。
また、2023年の経済成長目標を達成するために、どんな政策を打ち出していくのかもポイントです。昨年12月に開催された中央経済工作会議の流れを引き継ぐ形で、内需拡大に焦点が当てられ、不動産政策に関しても突っ込んだスタンスが打ち出されるでしょう。穏健な金融政策と積極的な財政政策もうたわれると思います。コロナ禍に関しても何らかの記述があるでしょうが、感染拡大抑止策はもはや問題ではなく、経済をいかに回復させるかに重点に据える政策をどう描写するかも注目です。
注目ポイント(4) 各種経済指標
経済指標という意味で最大の注目点は成長率ですが、それだけではありません。私が注目しているものとしては、CPI(消費者物価指数)、GDP比の財政赤字率、都市部における新規雇用者数などがあります。
これらの指標がどの程度に設定されるかによって、ロシア・ウクライナ戦争がいまだ終わらない中、中国政府はどのあたりに「インフレ・ターゲット」を定めるか、物価の推移をどう見ているのか、どのくらいのお金を財政出動に当てるのか、社会の安定にとって極めて重要な雇用問題をどう管理しようとしているのか、などが見えてきます。
注目ポイント(5) 「習近平一極体制」における人事
昨年10月に開催された5年に1度の党大会において、習近平政権は3期目入りし、チャイナセブンと呼ばれる新たな中央政治局常務委員7名の顔ぶれも明らかになりました。一方、あらゆる人事が確定し、習近平第3次政権が本格的に始動するのは全人代を通じてということになります。
具体的には、習近平氏の国家主席3選が決まります。また、党内序列2位の李強氏が李克強氏の後を継いで国務院総理に就任する見込みです。その他、政府や解放軍を含め、新政権におけるあらゆるポストが埋まっていく舞台となるのがこの全人代なのです。
私が個人的にとても注目しているのが、それぞれ引退が予定される王岐山国家副主席、および今年1月ダボス会議で中国政府を代表して基調講演を行った劉鶴国務院副総理の後継に誰が着くか。この人事次第で、中国市場の見え方や、海外政府、市場関係者の中国経済への関与や期待値などが左右されるでしょう。
注目ポイント(6) 台湾
昨年、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問や、それを受けての中国人民解放軍による前代未聞の軍事演習などで、台湾海峡は大いに荒れました。習近平国家主席は、米台間の軍事協力や、来年1月に総統選を迎える台湾政治、米国高官、議員の訪台などに警戒心と不満を強めてきています。
そんな中、全人代で台湾がどう扱われるのかは注目です。具体的には、党指導部としての台湾政策に関して、例えば統一の在り方、仕方などを巡って従来よりも踏み込んだ立場が示されるかどうか。あるいは、全人代というのは議会ですから、台湾関連で新たな立法が審議されるかも注目点になるでしょう。
注目ポイント(7) 国防費の拡大
台湾問題にも関連しますが、全人代で、特に外国メディアが焦点を当てるのが国防費とその上昇率です。2022年は前年比7.1%増の2,294億ドルでした。中国の国防予算はすでに日本の5倍以上に膨れ上がっています。日本の安全保障を考える上でも、中国の国防、より正確には、軍事政策は避けては通れない要素になります。
昨年の7.1%増という上昇率は、経済成長率目標として設定された5.5%前後よりも高く、言い換えれば、国防予算の増加は経済成長の速度を上回っていることになります。今年はこの割合はどうなるか。コロナ禍ですり減った、限られた財源をどこに使うのかを占う上でも見ものです。
注目ポイント(8) 習近平氏の表情と仕草
私の理解では、会議の性格や議題上、全人代という舞台で最も注目されるのは、総書記・国家主席・中央軍事委員会主席という3役でトップを担う最高指導者ではなく、政府活動報告を発表する国務院総理や全人代の委員長などです。全人代を通じて、特に党大会や中央政治局会議などに比べ、最高指導者は「脇役」に徹するのが通常です。
とはいえ、前任者たちと比べても、習氏の政治的影響力は規格外ですから、全人代での動きにも注目です。習氏が地方自治体代表団の分科会でどんな発言をするかといった点も大事ですが、それ以上に、会議を通じて、どんな表情と仕草を見せるのか。例えば、終始リラックスした表情をするのか、特定の同僚と和気あいあいとした会話をするのかなど、ベールに包まれた中国共産党政治の内実を理解するために、習氏の動向はある意味最大の注目ポイントになるでしょう。
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