今回のテーマは米国株信用取引における決済通貨についてです。

米国の現物株取引では意外と気になる決済通貨

 当たり前ですが、米国株は米ドルで取引が行われますので、日本に住む投資家はどこかのタイミングで手持ちの円を米ドルに交換して売買を行う必要があります。

 現物株の場合、取引ごとに円を米ドルに換えて米国株を買い、売却して米ドルを円に換えて受け取るのがいわゆる「円貨決済」、その一方、あらかじめ米ドルに換えた資金で米国株を買い、売却代金も米ドルのままで受け取るのが「外貨決済(米ドル決済)」となります。

 このまま現物株について話を進めるならば、今後も繰り返し米国株を売買したり、通貨を換える際に発生する為替手数料なども考慮すると、外貨決済の方が有利になることが多いといった具合に、円貨決済と外貨決済の「どちらがおトク」的な流れへと発展していくのですが、ここでは信用取引について解説していますので、いったん話の流れを軌道修正します。

米国株信用取引は外貨決済。でも重要な点は別にある?

 結論を先に述べてしまうと、米国株信用取引の決済は、現引・現渡の場合を除き、外貨(米ドル)で行われます。

 ここで大事なのは、決済通貨そのものよりも、信用取引が「委託保証金を証券会社に預け入れて、取引に必要な資金や株券を借りて行う取引」であるという点です。例えば、米国株信用取引で買い建てを行う場合、預け入れた委託保証金の額に応じて、米国株を買うための米ドル資金を借りるわけですから、外貨決済になるのはごく自然なことといえます。

 楽天証券では、米国株信用取引の委託保証金として、「現金(米ドル・日本円)」と「株式(米国株)」を預け入れることが可能なのですが、実は、委託保証金の現金に米ドルだけでなく、日本円も利用できるという意外(?)と便利な面もあります。

現物株を買うのに、あえて信用取引を使うという手法はアリか?

 先ほども触れましたが、現物で米国株を買うには日本円を米ドルに換える必要があり、通貨を換える際の為替手数料が発生しますが、信用取引の買い建てを利用すれば、日本円を委託保証金にして米ドル資金を借りる仕組みのため、為替手数料が発生しません。

 新規建て後の建玉を返済して得た利益については米ドルで受け取ることになりますが、そのまま米ドルで保有して次の取引に備えても良いですし、為替レートのタイミングを見計らって円に換えることも可能です。少なくとも入口の取引(新規建て)についての為替手数料を節約することができます。

 となると、「買い建てした信用建玉を現引きすれば、為替手数料を節約しつつ現物株を保有することも可能ではないか?」と考えることもできます。現引きとは、信用取引の決済方法の一つで、買い建玉分の代金を支払い、現物株として保有し直すことです。言葉の通り、「現」物株として「引」き取るという意味です。

 当然ながら、現引きを行うには建玉分の米ドルを支払います。手元に日本円しかないのであれば米ドルに換える必要があり、新規建て時点で為替手数料を節約できても、円貨決済で現引きを行うときに為替手数料が徴収されることになりますので、あまり意味がないことになります。

 ただし、取引手数料の面では、「信用買い建て+現引き」による現物株保有はコスト面で有利となる場合があります。

<図>楽天証券の米国株取引手数料比較(信用取引&現物株)

 上の図を見ると、約定代金の区切りは異なりますが、全般的に現物株取引よりも信用取引の取引手数料の方が割安となっています。

 現引きとは、もともと現物株で長期的に保有するつもりだったが、買いたいと思ったときに資金が足りず、とりあえず信用取引で買い建てをし、資金が調達できた段階で行ったり、短期の取引期間を想定していたが、中長期のトレンドが続きそうと判断したときなどに行ったりします。

 もちろん、金利などの他の諸経費も考慮する必要はありますが、タイミングによっては現引きによって、現物株保有に切り替えるという手段は有効です。

 確かに信用取引はコストへの意識も大切ですが、あまり取引自体を複雑にしても、肝心な建玉の管理がおろそかになってしまっては意味がないので、自分の投資スタイルに合わせてうまく利用することがポイントになります。