金融市場は昨年に引き続き荒れた状態にある。長期的なリスクとリターンを考えて、アセットアロケーション(資産配分)を計算してみようという気にはならないかも知れないが、今回は、敢えて、年金基金の運用計画を考える場合のような、教科書的なアセットアロケーションを検討してみたい。
大まかなフレームワーク
アセットアロケーションを検討するフレームワークとして最もポピュラーなのは、平均分散アプローチだ。
マルコビッツが開発した、リターンの期待値(平均値)に注目し、リターンの分散(標準偏差の二乗)をリスクとして扱う枠組みである。
リスクの定義の仕方には複数のやり方があるし、静的な最適化だけではなく、動的な(異時点にわたる)最適化を考えるなど、方法はいろいろあるのだが、
- (1)平均分散アプローチは直観的に分かりやすく(その他のアプローチと較べるとはるかに分かりやすい)、
- (2)したがって運用計画に関してコミュニケーションを図るのに適しており、
- (3)具体的な数値計算が簡単であり、
- (4)現実に実務の世界で広く用いられている。
また、もう一点、
- (5)これ以上複雑な枠組みの場合、前提となるインプット(数値)が正確でなければ意味がないが、現実には必要なインプットを正確な数値で得ることがほとんどの場合難しいので、複雑なフレームワークが意味をなさないことが多い、ということも付け加えておこう。
アセットアロケーションを求める手順を大まかに述べよう。まず、それぞれの資産クラスの期待リターンとウェイトからポートフォリオ全体の期待リターン(r)を計算し、リターンの標準偏差及びアセットクラス間のリターンの相関関係に資産クラスのウェイトを使ってポートフォリオのリスク(σ2)を求め、さらに、ポートフォリオの効用(U)をリスクに対する拒否度(λ:正の定数)を使って表して、効用関数U=r-λ・σ2を最大化するようなウェイトの組み合わせを求める、というのが手順のあらましだ。
ツールとしては、マイクロソフト・エクセルがあれば簡単に計算できる(「ソルバー」の機能を使って最適化計算を行うと簡単だ)。
なお、アセットアロケーションの詳しい分析方法・計算方法については、拙著「年金運用の実際知識」(東洋経済新報社)の第5章を参照されたい。
リスクと期待リターンの数値の決め方
リスクと期待リターンの数値は、あくまでも、「将来のリスク」、「将来の期待リターン」でなければならない。とはいっても、リスクも期待リターンも将来の正しい値を得る確立された簡単な方法があるわけではない。
リスクについては、過去のリターンの実績から計算した値(標準偏差や分散及び相関係数)を将来のリスクに代用することが多い。とはいっても、過去のどの期間のリターンを使うかについて、また、そのデータに何らかの修正を加えるかどうかについては、分析者の主観によって決めるしかない。過去のある期間から推定されたデータを使うということは、その期間のリターンのデータと将来生じるリターンのデータが、少なくともよく似ていると分析者が判断したということであり、それ以上でも、以下でもない。
たとえばリスクの推定に非常に長期のデータを使うと、統計的なサンプルは増えるのだが、現在と経済環境や資本市場の様子が異なる時期のデータも多量に含むことになるので、用いるデータの期間が長ければ長いほどいい、というような単純なものではない。
今回は、日本の公的年金の運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2008年度のポートフォリオの検証で用いた、過去35年間のデータから推計したリスクデータを使ってみることにする。「長ければ長いほどいい、というような単純なものではない」と言っておいてこれを使うのも気が引けるが、誰でも利用しやすいポピュラーなデータなので、これを利用する。
期待リターンの求め方は、年金基金によっても異なるし、運用会社によっても差がある。「ビルディング・ブロック方式」といってリスクの大きなものは期待リターンが大きいだろうと仮定(期待?)しつつ、鉛筆を舐めて決める方法、機関投資の運用計画をサンプリングして市場の平均的期待リターンを逆算し、これを修正しながら使う方法(前掲拙著の方法)、何らかのリターン推定モデルでアセットクラスのリターンを直接予測しようとする方法など、様々だ。